【重心移動と体重移動】
先ほどの鬼木さんの書籍によれば、サッカーの上手い選手は重心移動が出来て、下手な選手は体重移動を使うという両極端な解釈が見られます。
でも、実際には誰でも重心移動を使っています。
なぜなら、そうしないとまともに歩けませんし、日常生活さえも困難になるからです。
この場合の問題は、むしろ日本のサッカー選手が自分の筋力(抗重力筋)に過度に依存した、体重移動によってプレーしている点です。
そうした点で、正しい重心移動を身に付けるのが大切なわけですね。
そこで次からは、これまで解説した重力と地面反力、重心(身体重心)、支持基底面という3つの仕組みを踏まえ、(1)体重移動と抗重力筋の関係、(2)重心移動と走る動作について詳しく解説します。
(1)体重移動と抗重力筋の関係
①抗重力筋とは
重心移動と体重移動の最も大きな違いは、抗重力筋の使い方にあります。
抗重力筋とは、地球の重力に対抗して、立って生活するために必要な筋肉です。
この筋肉は首、背中、お腹、お尻、太もも、ふくらはぎなどの広範囲にあり、この部分の総称を「抗重力筋」と呼んでいます。
もしも抗重力筋がなかったら、ヒトは立ちあがることが出来ず、トカゲやワニのように腹ばいで生活していたでしょう。
この場合、ほぼすべての日常生活の動作(立ったり、歩いたり)で抗重力筋が使われます。
そうするとサッカーのプレーにおいても、ほとんどの人は抗重力筋を使うことが多くなります。
こうした抗重力筋を使って体を動かすことを「体重移動」と言います。
もちろん必要最低限の重心移動は使いますが、やはりパワーとスピードが必要なので、どうしても抗重力筋を酷使するケースが多くなるのです。
また体重移動は筋肉に依存した動作なので、スピードやパワーは筋肉量や体格に左右されます。
そうすると筋トレで鍛えて筋肉を付けるわけですが、やはり試合中は筋肉に頼ってプレーするので、いったん疲労が起きるとプレーのパフォーマンスが落ちてしまう…というわけですね(つまり筋肉に依存した悪循環になる)。
実際にも、試合の後半になると疲れて足が止まる…などの現象は、もっぱら筋肉に頼った体重移動を使うのが原因です。
簡単に言えば、筋肉を使って頑張ってしまうわけですね。
②ヒトは生後すぐに体重移動が習慣化する
ヒトは、どうして体重移動に頼ってしまうのでしょう?
その理由はヒトが生まれて1歳頃に立って歩き始める時点で、抗重力筋を使う動作を覚えてしまうからです。
神奈川県立保健福祉大学の研究によれば、1歳児~3歳児までの子供が歩く時の筋電図を測定したところ、1歳児が最も多く筋肉を使い、2~3歳児にかけて落ち着くという傾向が見られたそうです。
これは1歳児の筋肉量が最も少ないので、全身の抗重力筋を使うことを意味します。
また2~3歳児にかけて落ち着くのは、筋肉量が増えたからです(つまり足の一部の筋肉だけを使う)。
ところが、抗重力筋そのものを使い続けるという現実は変わりません。
そうすると、ヒトは生まれて歩き出した瞬間から、抗重力筋に依存して生活するということです。
また、そうした子供たちが成長すると体重移動が習慣化してしまうわけです。
言い方を変えれば、体重移動を止めない限り、重心移動は身に付かないということですね。
さて次は、(2)重心移動と走る動作について解説します。
(2)重心移動と走る動作
重心移動は、重心を支持基底面から大きく外に出すことで生じる動作でしたよね(先ほども解説しましたよね)。
例えば、歩いたり走ったりする場合は、重心を支持基底面の外に移動させることで、体重移動とは違って抗重力筋に頼らない…、つまり疲れ難い動作が出来るようになります。
その場合の重心移動を使った走り方は、
① 支持基底面の外に重心移動する…。
② 地面に着地して新たな支持基底面を作る…。
③ 再び支持基底面の外に重心移動する…。
この動作の繰り返しです。
例として、私の息子「とも」の走り方を見てみましょう。
次の動画は小学5年生の時のリレーの様子です。
「とも」の重心移動を解析してみましょう。
①左足が着地して支持基底面が出来る
②同時に重力落下(膝抜き)。
③重心を支持基底面の外に動かして、重心移動。
④重心をさらに前に出す。
⑤空中動作に移行する。
この中で特徴的な動作は、①~②で着地した時の膝抜きです。
この時、膝抜きによって重力落下するので、ほんのわずかに体が沈み込みますが、この沈みは全体重を使って地面を蹴るのと同じ効果があります。
つまり、地面を蹴った時に生じる地面反力と同じ力が、「とも」の体を押し返して来るのです。
ふつうなら頭が上下動するはずですが、「とも」の場合は頭の位置が変わりませんよね。
これは膝抜きをして体が沈み込んでも、すぐに地面が押し返してくるということで、重力落下→地面反力→重心移動を上手に使っている証拠です。
スポーツ科学の分野では、地面反力を得るために、抗重力筋(太もも)を使って地面を強く蹴るのが常識とされています。
ところが「とも」の場合は地面を強く蹴るのではなく、膝抜きを使って全体重をかけて地面を押して(蹴るのと同じ)地面反力を得ているのです。
つまり抗重力筋を使って頑張って蹴らなくても、十分に地面反力を得られるわけですね。
こうすることで、長距離走のようにリラックスしながら走り切ってしまうのです。
しかも、抗重力筋(太もも)をほとんど使わないので筋肉疲労はありません。
やはり、抗重力筋の代わりに自分の体重を使うからでしょう。
まるでボールが弾むような、弾力性のある走り方とも言えますね。
そうした点では、今のスポーツ科学には間違いがあるのかも知れません。
たぶんお気づきでしょうが、この走り方はサッカーのピッチ走法にも使えます。
そうすると試合の後半になっても疲れませんし、足が止まる…などということも起きません。
ちなみに、陸上競技の400mハードル日本記録保持者の為末さんが昔のインタビューで、次のようなことを言っていました。
「地面を強く蹴って走ると体が上下動してしまう。このムダなエネルギーを前に向かう推進力に変えたらもっとスピードが出るはず…」
これは重心移動を活かした走る動作の考え方にとって、気付きを与えてくれた言葉ですね(つまり膝抜きを使って地面反力を得る)。
いずれにしても重心移動と体重移動の最も大きな違いは、抗重力筋に頼ってしまうか?どうか?ということになります。
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さて次に、これまで解説した重心移動の仕組みが、サッカーのプレーにどのように活かされているのか?という点について、私の息子「とも」の実演動画を使って詳しく解説します。
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