ブラジルでのコーチの経験を活かして、 サッカー未経験の方にも分かりやすく科学的で正しい理論をご紹介します

サッカー選手として子供が成長するのはどういうこと?

子供がサッカー選手として成長する時は、なかなか思い通りには行きません。

だからこの子は才能がないのだろうか?と、親御さんが悩むこともあるでしょう。

もしもそう考えていたら間違いです。

そこで今回は子供がサッカー選手として成長するのはどういうことなのか?最も大切なことは何か?を解説します。

ぜひ子育ての参考にしてください。

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【成長の本当の意味】

(1)理想と現実

子供の成長に対して親が大きな期待をかけるのは、どこの家庭でも変わりません。

やはり、将来は立派なサッカー選手になってほしいと願うものです。

先ずは、育成年代でチームのレギュラーになって試合で活躍してほしい。

その上のカテゴリーでも成長して、やがてはプロになって日本代表に…と妄想を膨らましているかも知れませんね。

でも、そうした成長過程の中で、なかなか思い通りに伸びないことがよくあります。

例えば、新しいテクニックを覚えようといくら練習しても出来ない…。

練習では出来るプレーが、試合では上手く行かない…。

このようなことは、子供の成長にとって日常的に見られます。

実は、こうしたことは理想と現実のギャップから起こるものです。

(2)ブレークスルーポイント

どこの家庭でも、親が子供に抱く理想の成長は右肩上がりですが、現実の成長は理想とは違ってギャップがあります。

実際には、とても長い停滞期を経た後で突然大きく成長するのですが、こうした時期を「ブレークスルーポイント」と呼びます。

例えば子供が3か月間で100回を目標に、リフティングの練習を始めたとします。

たぶん、最初の1ヶ月は10回でも出来れば良い方でしょう。

ところが、ある日を境にして突然20回、30回と面白いように回数が伸びて行きます。

コツを掴んだから…というのもあるでしょうが、むしろ地道に練習を続けた結果によるものなのです。

「努力は報われる」という格言は本当なんですね。

また、この現象は子供でも大人でも起きるものですし、サッカーでも勉強でもどのような分野でも起こります。

ところが、先ほどのリフティングでいくら練習しても100回出来ない…と、途中で努力を止めてしまったらどうなりますか?

その場合はブレークスルーは起こらず、停滞期が続くだけです。

たぶん、もう少し続けていたら大きく成長していたかも知れません。

そうした意味では、親の心構えとして、子供がくじけそうになった時に優しく励ますのも大切ですし、成長するうえでの停滞期をきちんと理解して、やがて来る成長期を信じて見守ってあげましょう。

(3)成長期と停滞期

先ほどリフティングを例に、やや長期的(3ヶ月)な成長曲線の考え方を解説しましたが、これは日々起こり得る短期的な出来事にも当てはまります。

例えば、最初の一ヶ月で3回出来た日もあれば、次の日は1回しか出来ない…ということはよくあります。

また、突然20回出来たかと思うと翌日は10回しか出来ない、でも数日後には25回出来た…など、短期的にも成長期と停滞期を繰り返します。

つまり子供が成長するうえでは、短期的にも長期的にも成長期と停滞期を繰り返すということですね。

親はこうした成長の仕組みもきちんと理解したうえで、子供と向き合うのが大切なのです。

(4)ブレークスルーは自然界の法則

先ほど、成長するうえでのブレークスルーポイントの特性を解説しましたが、こうした特徴は、子供の体の成長でも同じ現象が見られます。

特に小学校高学年~中学生の子供をお持ちの親御さんならお分かりでしょうが、この時期は身長が大きく伸びる時期ですよね。

これは大人になるための生物学的な自然現象ですが、ブレークスルーポイントが来たという考え方も出来ます。

一方、植物の成長サイクルにおいても成長期と停滞期があります。

例えば、稲は梅雨前に田植えをして夏から秋を経て収穫します。

その理由は、冬に田植えをしようとしても稲は休眠期(停滞期)で発芽しないからです。

また、観葉植物などは一年中成長しているわけではなく、暖かい季節に成長して寒い時期は休眠しているのです。

だから、休眠期にいくら水や肥料を与えても成長しませんし、むしろ枯れてしまう原因になるだけです。

つまり、成長とブレークスルーポイントの関係は、ヒトに特有な現象ではなく、自然法則の一つなのです。

そうした意味では子供は必ず成長するので、親は成長の自然なメカニズムをきちんと理解して子供を見守ってあげましょう。

さて次は、子供の成長と早熟・晩熟の関係を詳しく解説します。

【成長に対する早熟と晩熟】

(1)成長と自然界の法則

自然界で生物が成長する場合は、必ず早熟な個体が出現します。

こうした早熟の個体は親から多くエサを与えられるなど、他の一緒に生まれた子供よりも優遇して育てられます。

なぜなら、体も大きく他の捕食者に狙われる危険性が少ないからです。

自然界では、遺伝子を残し絶滅を避けるという種の保存法則が優先されるので、そうした点からも親に優遇されるのでしょう。

その一方で、未熟な子供は体が大きくならないため、やがて病気や捕食者に襲われるなどして自然淘汰されます。

ところが、親に見捨てられた未熟な子猫を人の手で育てると大きく成長することがありますよね。

その結果、未熟な個体は、実は晩熟であったということになるわけですね。

こうした現象は自然界だけではなく、子供がサッカーで成長する時にもあてはまります。

(2)早熟と晩熟

早熟の子供はパワーとスピードが図抜けていることから、チームの中心選手になることが多いですよね。

また、難しいテクニックも早く習得してしまうため、「この子は優秀だ!」と称賛されることもあるでしょう。

だから、早熟の子供は活躍の機会が増えるわけですね。

こうした子供は肉体的に早熟なだけなのに、「人間的にもしっかりしている…」など、精神的にも大人とみなされることがありますが、これは単なる誤解です。

子供は多くの知識を学んで大人と同じ社会で生活しない限り、精神的な成長はあり得ません。

そうした早熟の子供であっても、身体的な成長は必ず止まります。

そうすると周囲の評価は、伸び悩み…と見なすことが多くなるのです。

また選手としての出場機会が減ったりして、サッカーへの興味が消え、やがては止めてしまうこともあるでしょう。

実は天才サッカー少年ともてはやされた子供は、このタイプが多いのです。

こうして考えると、早熟な子供の宿命なのかも知れません。

一方、晩熟の子供は小学生年代ではあまり目立ちませんが、それは成長の違いなので仕方がないことです。

でもほとんどの親御さんは、ご自分の子供と他人の子を比べたりしませんか?

「あの子はサッカーが上手いのに、どうしてうちの子は下手なのだろうか?」というようにですね。

でも心配することはありません。

晩熟の子供は、むしろ中学生以降に急成長します。

特に日本人は、15歳~18歳頃に心身とも急激に大人に近付くのです。

そうすると、晩熟であっても結局は早熟の子供に追い付いてしまいます。

実際にも日本代表のほとんどの選手は、中学生や高校生になってから成長した選手の方が多いです。

こうした早熟と晩熟の違いを生物学的に見れば、単なる個体差でしかありませんし、大人になれば双方の違いはほとんどなくなります。

だから、親御さんもご自分の子供の成長を見守ることが大切です。

(3)ブレークスルーとの関係

先ほどブレークスルーポイントの特性を解説しましたが、この考え方は早熟と晩熟の違いにも当てはまります。

この場合、早熟の子供は、他の子よりも早く成長期が来たということです。

ところが、早く成長期が来たからといっても、ヒトの成長には限度がありますよね。

例えば小学生で身長が170㎝を越えていたとしても、将来2m以上になるとは限りません。

そうした点では、早熟の子供はブレークスルーポイントが早く来ただけなのです。

一方、晩熟の子供は成長期が到来するのが遅いだけであって、誰にでも成長する時期は必ず来ます。

総じて言えば、ブレークスルーポイントの時期はヒトによって全く異なるわけですね。

だから、子供が早熟だからとか、晩熟だからとか、そうしたことで悩む必要ありません。

子供は必ず成長しますし、単に早いか遅いかの違いでしかないのです。

さて次は、サッカー選手が成長する意味を詳しく解説します。

【サッカー選手が成長する意味】

(1)年代別代表の成長の現実

日本の男子サッカーは、A代表とは別にU15~U18までの年代別チームがあります。

この場合、先ずは年代別のカテゴリーに選出されて競争しながら成長し、やがてはA代表に入るのが理想なのでしょう。

日本サッカー協会としても、優秀な子供たちを選んで国際大会を経験させて、大きく成長してほしい…という狙いがあるはずです。

実際にも2006年ドイツW杯までの代表メンバー23名は、中田英寿、小野伸二などの年代別代表の経験者たちが大多数でした。

ところが、2014年のブラジルW杯になると、香川真司、内田篤人、酒井高徳、清武弘嗣、柿谷曜一朗、斎藤学、権田修一など、年代別代表経験者が全体の3割程度に激減し、2018年のロシアW杯でもこうした傾向が見られています。

こうした事情は、年代別代表が順調に成長していないのかも知れません。

また、サッカー選手を目指す子供たちが全国的に増えた結果、将来有望な選手がかえって埋もれてしまい、後々になって頭角を現したという見方も出来るでしょう。

でも、私は指導者側が選手を成長させるという本来の意味を、きちんと理解していないことが大きな原因だと思います。

そこで、次に日本と海外の指導者の違いについて考えてみましょう。

(2)日本と海外の違い

① 日本の場合

日本のサッカーは、クラブチームでも少年団でも学校の部活動でも、強いチームを作ることが優先されます。

そのため勝利至上主義となり、早熟な子供たちは「サッカーが上手い」と見なされて優先的に育成されます。

そうすると晩熟型の子供は「サッカーが下手」とみなされるので、成長できる機会が少なくなるのです。

また試合に勝てば良く、負けたら全てが悪いというふうにも考えがちです。

試合中にミスしたら大声で叱られますし、それが原因でチームが負けたとしたら、その子供が立ち直れないくらいにまで罵倒します。

しかも、小学生年代はおろか幼稚園児の年代に対してさえも、こうした考えが受け継がれています。

これは指導者の問題だけではなく、親にもこうした意識が見え隠れしています。

うちの子はダメだ…なんて思っていませんか?そうした思いは子供ながらに敏感に感じ取りますよ。

そもそも、サッカーは陸上や水泳のような個人競技と違って、団体スポーツであることから個人を成長させる視点が少ないのかも知れません。

一見すると極端に思えますが、でもこれが日本の現実なのです。

② 海外

海外の指導者たちは、子供を良い選手に成長させようと考えます。

子供たちには、あくまでも個を育てるという姿勢で向き合い、まるで個人競技のように指導するのです。

そうした意味では、個々の子供の成長が早熟なのか?晩熟なのか?という違いは重視せず、むしろ、子供の将来の伸びしろを的確に見抜く力が求められています。

例えば、FCバルセロナのメッシは13歳の時にアルゼンチンからスペインに渡って入団しましたが、当時は体が成長しない難病であったものの、治療費の全額をクラブ側で負担するという条件で契約したのです。

つまりクラブ側としては、メッシの将来性を見抜いていたわけですね。

こうした個々の子供の成長を見抜くという考え方とは別に、もう一つ大切なことがあります。

それはサッカー選手の完成期である18歳までは、チームとしての勝ち負けは重視しないということです。

その理由は、完成期までに成長すれば良いという長期的な考え方にあるのです。

そうした意味では、試合中にミスをしても、そのことにはあまりこだわりません。

なぜなら、サッカーにはミスが当たり前という考えが根付いているからで、しかも、ミスを少なくさせるために個人の成長が必要という発想があるのです。

つまり、日本はチームを成長させることが目的なので早熟な子供たちが優遇されますが、海外では子供たちの伸びしろを的確に見抜いたうえで、個々の成長を重視するというように、全く異なった思想があるわけですね。

日本の子供たちにとっては、海外と比べて未熟な指導者が多いという環境は大変だと思います。

そうした中で個の力を磨き、自立して成長した子供たちだけが日本代表になるのかも知れません。

私としては、日本の育成年代の子供たちにとっては、大きなハンデのように思えます。

これでは日本のサッカー選手が世界で大活躍する…というのは、まだまだ先のことではないでしょうか?

やはり、日本の指導者たちは海外に目を向けて、育成年代の子供たちを本当の意味で成長させるよう取り組んでほしいと思います。

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【まとめ】

これまで、子供の成長における理想と現実のギャップ、成長期と停滞期、早熟と晩熟の考え方について解説しました。

また、突然成長する時期のブレークスルーポイントは、誰にでも訪れるので努力をあきらめてはいけないことも説明しました。

一方、子供が成長するうえで、これからの日本の指導はチーム重視でなく個々の子供たちの成長を重視した指導も大切です。

そうした意味では、サッカーにあっては指導者が…、家庭にあっては親が…、それぞれ子供の成長とは何なのか?を見つめ直す時期に来ているのではないでしょうか?