ブラジルでのコーチの経験を活かして、 サッカー未経験の方にも分かりやすく科学的で正しい理論をご紹介します

ジンガステップはサッカーが本当に上手くなるのか?

土屋健二さんが考案したジンガステップを練習するとサッカーが上手くなる…というのは行き過ぎです。

その理由は、サッカー選手としては絶対にやってはいけない「ある癖」が身に付いてしまうからです。

そこで今回は、土屋さんのジンガステップは本当にサッカーが上手くなるのか?という点について詳しく解説します。

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1.ジンガステップとは?

(1)ジンガステップと土屋健二

ジンガステップは、サッカーのデモンストレーターでリフティング王と言われる土屋健二さんが考え出した、ボールキープのテクニックです。

土屋さんは小年時代に医者を目指していましたが、テレビ東京で放映されていた「ダイアモンドサッカー」がきっかけで、20歳からサッカーを始めました。

また、イングランド、ブラジル、アルゼンチンで武者修行をしながら、実戦に活かせるリフティング技術を研究しています。

その後、1995年にナイキリフティング大会で優勝し、1997年には元ブラジル代表でサッカーの神様と呼ばれるペレと対面し、リフティングの優れた技術に高い評価を得ました。

そして2003年4月に土屋さんが理想とするスーパージンガが完成し、現在でも進化を続けているのです。

その後、2010年にはマラドーナDVD発売記念動画コンテストに参加して最優秀賞を受賞しました。

そうした実績を積み重ねたリフティング技術ですが、数多くの試合のハーフタイムショーなどで披露しています。

また、現在は日本各地でサッカー教室を開催し、たくさんの子供たちにジンガステップを指導するなど忙しい日々を過ごしているのです。

(2)ジンガステップとウェーブ理論

土屋さんが考案したジンガステップの特徴は、ブラジルやアルゼンチンなどの南米のサッカー選手が持っている独特なリズムからヒントを得た「揺れ(ウェーブ)理論」にあります。

南米の選手たちの独特のリズムとは、全身を揺らしながら相手のタイミングを外すことにあるそうです。

これによって相手は、前後左右どのように動くのか?パスをするのか?ドリブルをするのか?という予測が出来なくなるのです。

そのためボールを奪おうとすると簡単に抜かれてしまうため、安易に足を出すことさえも出来なくなります。

こうしたウェーブはメッシ、ネイマール、ペレ、マラドーナのプレーにも見られ、こうした全身の揺れこそが南米の選手たちの独特のテクニックを支えているとも言います。

そして、こうした全身の揺れを誰もが体得できるように考案したのが「ジンガステップ」なのです。

ジンガステップを使うと全身の揺れによって、相手のタイミングを外すことが出来ますが、そればかりではなく足に吸い付くようにボールタッチが柔らかくなります。

そうした結果、相手に簡単に奪われなくなるという点で最強のボールキープ術と考えているようです。

また土屋さんによれば、ジンガステップは現在たくさんの種類があり、今でも進化を続けているそうです。

さて次は、ジンガステップが日本人に合ったテクニックであるとされる点を解説します。

(3)ジンガステップは日本人に合う?

ジンガステップはドリブルで相手からボールを奪われ難いとされていますが、足が遅い、体が小さい、キック力が弱い子供たちにとっても、おススメのテクニックです。

この場合、日本人は欧米のサッカー選手に対して体格差があるため通常の戦術では太刀打ちできません。

ところがジンガステップを使えば、こうしたハンデを克服することができるそうです。

また、メッシやネイマールは、フィジカルやスピードの面で欧米人に劣っているのに、ほとんどボールを奪われません。

そうした点でジンガステップを習得すれば、彼らのようなプレーをすることも可能だと考えているようです。

その一方で、FCバルセロナをはじめとしたポゼッションスタイルのパスサッカーは、日本代表の戦術でもよく使われますが、安全で確実にパスを繋ぐことが必要です。

そうした点でジンガステップを使えば、ボールが奪われ難く試合運びが有利になるそうです。

つまり、土屋さんは日本人が目指すべきテクニックこそが、ジンガステップだと考えているわけですね。

このジンガステップは地道な個人練習でしか身に付かないため、真面目な日本人には特に向いているようです。

また個人練習と言う点では、省スペースで練習できることも大きなメリットです。

(4)ジンガステップは全国に普及している

土屋さんは全国各地でサッカー教室を開催し、たくさんの子供たちにジンガステップを指導しています。

また自身の技術をまとめた書籍やDVDなどを数多く出版し、全国にジンガステップを普及させました。

そうした地道な活動により、多くの子供たちが技術の習得のために練習に励んでいます。

また、ジンガステップの技術を試合に活かすチームも増えていて、例えば次の動画のようなチームを見ると、指導者自らが土屋さんの理論を子供たちに忠実に教えているのが想像出来ると思います。

その一方で、元Jリーガーの藤田豊氏や元Fリーガーの橋本圭吾氏などによって、自身が運営するサッカースクールを通じて子供たちにジンガステップを広めています。

さらに元U-15、U-16、U-17日本代表監督の松田保氏もジンガステップを推奨しています。

松田さんによれば「全身をしなやかに使い柔らかいタッチでボールを扱うジンガテクニックは、子どもたち必見の最高のモデル…。」と評しているようです。

こうして、ジンガステップが全国各地の子供たちに広まったわけですね。

さて次は、ジンガステップが本当にサッカーに役立つのか?を解説します。

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2.ジンガステップの考察

土屋さんは、ジンガステップが試合で十分に活かせると考えていますが、本当にサッカーに役立つと思いますか?

結論から言うと、ブラジル人はもちろん海外のサッカー選手は実際の試合でこうしたテクニックは使いません。

Jリーガーでさえも同じことです。

本当に役に立つのなら、どんどん使っているはずですよね。

そうした意味で、ジンガステップは、クーパーコーチングのようなボールタッチの練習の延長線上にある技術だと考えた方が良いでしょう。

また育成年代の子供たちは、ジンガステップを練習するだけでサッカーが上手くなる…というのは行き過ぎだと思います。

そうした点について、次に詳しく解説します。

(1)ジンガの本当の意味

土屋さんのジンガステップには「ジンガ」という名称と、ブラジルやアルゼンチンなどの南米人の独特な体の揺れ(ウェーブ)という考え方があります。

そうすると南米の選手たちは、みんなこうした動きをする…と勘違いする方が多いのではないでしょうか?

でも、実際にはそうしたことはありません。

私は、30年前にブラジルのサンパウロのサッカークラブでジュニアとジュニアユースのアシスタントコーチをしていました。

そうした中、私が知る限りは、土屋さんのジンガステップのような動きをする選手を見たことがありません。

当時のブラジル代表ではジーコやソクラテスが有名でした。またアルゼンチンのマラドーナもFCバルセロナなどで活躍していましたが、やはり土屋さんのジンガステップのような動きは全く見られなかったですね。

その一方で、ブラジルにも「ジンガ(ginga)」という言葉がありますが、土屋さんのジンガステップのようなサッカーのテクニックを示す意味はありません。

ジンガとは、ブラジルの公用語であるポルトガル語の「千鳥足」や「よちよち歩き」が語源で、国技のカポエイラの基本ステップのことを指しています。

またブラジルでは、ジンガ特有の左右に体を揺する動作が、ドリブルのフェイント(ボディフェイク)に似ているとも考えられています。

そうしたフェイント動作の上手いサッカー選手が、「ジンガを持っている!」と言われるのです。

例えば、ブラジルではネイマール、ロナウジーニョ、ロビーニョなどが、そのように称えられています。

つまりジンガの本来の意味は、サッカーの才能を指すわけですね。

要するに土屋さんが考案したジンガステップは、ブラジルの本物のジンガとは全く別物なのです。

※本当のジンガを詳しくお知りになりたい方は、次の記事をお読みください。
ジンガの本当の意味!ブラジルサッカーの才能とは?

(2)ジンガステップのウェーブ理論の本質

土屋さんによれば、ジンガステップのウェーブは南米のサッカー選手が持っている独特なリズムからヒントを得たと言います。

また、こうした体の揺れは相手のタイミングを外すことにあるそうです。

でも、こうした体の揺れは南米の選手にとってどのような意味を持つのでしょう。

私が思うに、土屋さんのウェーブの理論はブラジルのジンガの動き…、つまりドリブルのボディフェイクからヒントを受けたのではないかと思います。

例えば、ロナウジーニョやネイマールがフェイントをする時に体を左右に揺さぶることがありますよね。

たぶん、土屋さんはこうした一面を見てウェーブが大切だと考えたのでしょう。

たしかに、こうした動作によって相手のタイミングを外すことは出来ますが、このような動きが彼らのドリブルの全てというわけではありません。

むしろ彼らのドリブルの特徴は、全身のリラックスによって体のバネ作用や筋肉の伸張反射を起こすことにあるのです。

また、土屋さんにとっては「リフティングと言えばマラドーナ!」と考えているようですが、次の動画のような体を揺する動きが、彼の言うウェーブのような動きがヒントになったのでしょう。

でも、こうした動きはリフティングをする時のリラックスしたウォーミングアップ的な動作でしかありません。

また実際の試合では、先ほどのロナウジーニョのように全身のリラックスによって背骨のバネ作用を起こすのが本質なのです。

次の動画の0:33からの解説を見るとよく分かります。

そうした点を踏まえると、土屋さんが南米のサッカー選手の動きには独特な体の揺れがある…という着眼点は正しいと思います。

しかも、サッカーは足だけではなく上半身も使うという認識は正解でしょう。

でもウェーブの動きの本質を考えると、実は背骨のバネ作用にあったという方が正しいのです。

そうするとジンガステップで実演する「くねくね」した土屋さんの動きは、あまり意味を持たないのです。

(3)ジンガステップは体が開く

ジンガステップの最大の問題は体が開いてしまうことです。

その原因は、両足の間にボールを置いて足裏でコントロールするためです。

そもそも、体が開いた状態はサッカーなどのスポーツに向かない姿勢です。

その理由は大きく分けて3つあります。
・パワーが集中できず、スピードが出せない。
・体の軸が不安定。
・上半身が使えない。

※体が開く意味を詳しくお知りになりたい方は、次の記事をお読みください。
体が開くとは?サッカー指導者が気付かない両足練習の弊害

もちろんメッシ、ネイマール、ロナウジーニョ、マラドーナなども、両足の間にボールを置いて足裏でコントロールするプレーは、時々あります。

でも土屋さんのジンガステップのように、いつもボールをこねくり回すようなことはしません。

基本的には利き足をメインにし、逆足をサブのように使うことで、プレーのパフォーマンスが上がるのです。

その一方で、ジンガステップは、試合中の一時的なボールキープなら可能でしょうが、現代のスピードサッカーには合いません。

その理由は、やはり両足でボールを持つからです。

こうした場合、小学生の試合であればそれほどスピードがないので使える局面もあるでしょう。

でも実際の試合を見る限り、こうしたテクニックはほとんど活用されていないのです。

特に強豪チームほど、そうした傾向があります。

そうした点で、ジンガステップはクーパーコーチングのようなボールタッチの練習と同じ程度のものと考えた方が良いと思います。

(4)ジンガステップの弱点

土屋さんは2018年12月5日に、ご自分のFacebookでジンガステップの弱点を次のように告白しています。

ジンガの弱点

私が開発した、地上でのキープのための足技である、ジンガ。
そのジンガの弱点を、私・本人が、今初めて明らかにする。

その弱点とは?

ジンガは、基本的に、左右の足裏で交互にボールに触れているので、その両足の間に足を深く(浅いと足を引っ掛けてしまう)突っ込まれて動きを止められ、その足を左右に払われると、ボールは奪われてしまうかも知れない!

…なので、対策として、

接近してジンガをする際は、相手に対して、常に足の間を見せない!つまり、相手に対して常に半身の状態でボールをキープする。

ここだけの話ですが…

これは何を意味するのかというと、両足の間にボールを置いて足裏でコントロールすると、相手から突かれやすいので、その場合は半身にしてボールを持たないといけないということです。

つまり股の間にボールを置くとインサイドや足裏しか使えないため、スピーディーに動かすことが出来ないのです。

そうした場合、相手のプレスを回避できないので、ボールを奪われてしまうわけです。

これは当たり前のことですね。

土屋さん自身がジンガステップの弱点として認めているわけですし、特に育成年代の子供たちはジンガステップに過度な期待をするのは止めた方が良いでしょう。

(5)ジンガステップと子供たち

ジンガステップは全国の数多くの子供たちに普及したのですが、こうした子供たちはその後どのように成長したのか?今でもジンガを使っているのか?という点について解説します。

ジンガステップを身に付けた有名な子供と言えば、2012年にレアル・マドリードの下部組織に入団した中井卓大君でしょう。

そこで、中井君のその後を一例として見てみましょう。

中井君は、これまでレアル・マドリードの下部組織を順調に昇格しています。

そして、その後のプレースタイルがどのようになっているのか?というと、実は極めてふつうのサッカーをしていますし、ジンガステップを駆使しているわけではありません。

時々ジンガ特有の足裏を使ったプレーを見せますが、こうしたテクニックは同年代の子供であれば、誰でも使うものです。

※次の動画の白いユニフォームの8番が中井君です。

それでは、どうしてジンガステップを使わないのか?というと、現代型のスピードサッカーに合わないからです。

その理由は、両足の間にボールを置いて足裏でコントロールするからですね。

先ほどもジンガステップの弱点として解説しましたが、やはりこの体勢では前後左右の素早い動きは出来ません。

土屋さんの実際の動きを見ても分かるとおり、その場に止まるのであればボールキープくらいは出来るでしょう。

ところが実際のサッカーの試合では、次から次へとスピーディーにパスを繋がないとゴールまで向かえないのです。

そうした点では、ジンガステップは土屋さんの理想とは違い、実戦にそれほど役に立たないと言えるでしょう。

3.まとめ

これまでジンガステップについていろいろと解説しましたが、メッシ、ネイマール、ロナウジーニョ、マラドーナなどのプレーを見る限り、土屋さんのようにボールをこねくり回すようなことはほとんどありません。

こうした一流の選手たちは利き足をメインに使って、一流のプレーを見せるのです。

またジンガステップはボールタッチという限定的な練習であれば効果的ですが、実際の試合で使う時は、いろいろな問題があります。

そこで、こうした点は大人が正しく理解して子供に伝えるべきではないでしょうか?

したがって、育成年代の子供たちはジンガステップを練習すれば、上手くなって一流選手になれる…などと言う過大な期待は持たない方が良いでしょう。

【画像引用:Youtube.com