ブラジルでのコーチの経験を活かして、 サッカー未経験の方にも分かりやすく科学的で正しい理論をご紹介します

ゴールデンエイジは間違い!JFAの不都合な真実とは?

(2)即座の習得

ゴールデンエイジを裏付ける3つの理論の二つ目である「即座の習得」は、脳神経系の臨界期の考え方から導き出されたものです。

①臨界期とは

脳神経系の臨界期(感受性期)とは、ヒトや動物の脳の働きが乳幼児期の経験によって変わることを指したものです。

代表例は1930年代の鳥の実験ですね。

これは、ひな鳥が目の前のおもちゃを親鳥と思って追いかけることを刷り込み(経験)と呼びますが、こうした行動は孵化後の8~24時間の間だけに限られます。

この8~24時間の期間を臨界期と言いますが、この時期を過ぎてから雛におもちゃを見せても、雛は何の反応も示しません。

その一方で、1970年代の実験では、子猫の片目を閉じた状態を続けると片目の視力を失いますが、この時の臨界期は生後3~4週頃までです。

そして生後15週を過ぎてから片目を閉じても、視力を失うことはなかったとの報告があります。

また、ヒトやサルにも同じような事例があるそうです。

このような実験結果によれば、脳神経系の臨界期は生後のわずかな期間に限られた現象とされています。

これに対してヒトの場合、例えば母国語の習得は12歳頃までが臨界期とされています。

これは日本人であっても12歳頃まで全く日本語を使わなければ、日本語を話せなくなるということですね。

また楽器の演奏や絶対音感などにも、生後何歳まで…という臨界期があるそうです。

これに対して別の研究では、必ずしも生後何歳までが臨界期という考えが適用しない事例も見られます。

例えば、日本のある研究グループが英語の文法について、小学校から学習している子供と中学校から始めた子供をグループ分けして、脳神経系の活性化にはどのような違いがあるのか?を調べた事例があります。

その結果、いつ始めたのか?よりも、学習期間の長い方が脳神経の活性化が見られたそうです。

そうすると脳神経系の臨界期は生後何歳まで…とは、あまり関係ないと考えられるわけですね。

さらに、イギリスのある研究グループは、ロンドンのタクシー運転手の海馬の大きさの違いを計測したところ、興味深い結果が出ています。

ロンドンのタクシー運転手はたくさんの通りや場所を覚えるため、空間学習能力が発達するので、同年代の男性の海馬よりも大きかったそうです(空間学習能力が発達すると海馬が大きくなる)。

しかも、運転歴の長いドライバーほど顕著だったそうです。

つまり空間学習能力は成長し続けるため、臨界期は存在しないということですね。

以上を総合的に考えると脳神経系の臨界期の理論は、未だ研究途上でハッキリしないことが多いと言えます。

しかも運動学習能力に関しては、生後何歳まで…という臨界期の研究は発表されていません。

そうするとゴールデンエイジの中核の一つである「即座の習得」も、実は非科学的な考え方なのです。

もっと言えば、ゴールデンエイジの理論そのものの信頼性にも、大きな影響があるわけですね。

②ゴールデンエイジと臨界期

ゴールデンエイジと臨界期の関係については、元日本サッカー協会技術委員長(2019年現在・FC今治監督)の小野剛氏が、次のように説明しています。

「運動機能には明確な臨界期は存在しないものの、これに相当する時期はある」。

その根拠としたのが、ドイツの運動学者マイネル(1898-1973)の「運動学」という書籍からの引用で、「子供の脳神経細胞の成長は9~12歳までに完成する」という点を根拠としているそうです(※スキャモンの成長曲線と同様に、ここでも単なる書籍の引用なので根拠は極めて乏しい)。

これはスキャモンの成長曲線から導き出した、ゴールデンエイジの運動学習最適期と全く同じですね。

マイネルはドイツ統一前の東ドイツの学者ですが、スキャモンはアメリカの解剖学者です。

また第2次大戦後の東ドイツは鎖国状態だったので、西側のアメリカの文献は普及していなかったはずです。

そうするとスキャモンの成長曲線の理論は、東ドイツに伝わっていないのではないか?と思います。

マイネルは「本当に9~12歳までに完成する…」なんて発表したのでしょうか…?

これはかなり怪しいですが、この点は100歩譲って良しとしましょう。

仮に言ったとしても、マイネルの「子供の脳神経細胞の成長は9~12歳までに完成する」という点と、ゴールデンエイジの運動学習最適期は9~12歳である…、という、お互いの理論の因果関係がハッキリしていません。

先ほども解説したとおり、日本サッカー協会は、晴天の日が続いた(原因)ので高温の日が続いた(結果)という程度の科学的な検証をしていないので、原因と結果の関係ではなく単に関連性があるとか、推測をしたというレベルなのです。

また注意しなくてはならないのが、12歳を過ぎると運動機能は脳神経系の臨界期なので、即座の習得は出来ないという根拠がハッキリしていません。

つまり先ほど解説した「子供が12歳を過ぎると、本当に運動学習には適さないのか?何をやってもダメなのか?」という点ですね。

これに対して小野剛氏には、ゴールデンエイジと臨界期の関係には、さらに2つの独自理論があるそうなので、これを考えてみましょう。

③小野剛氏の臨界期に対する考察

小野剛氏によれば、子供の運動学習は大人とは違って理性的な分析をしないため、体を動かす時は見たものを感じたままに行ってしまうそうです。

これは幼児が話しをする時に大人のような正しい会話力がなくても、話しが出来てしまうのと同じだから…と根拠づけています。

だから9~12歳の子供は運動学習最適期なのだそうです。

要するに、ゴールデンエイジの理論は正しい!と言いたいのでしょう。

ところが、どうして9~12歳の子供に限定されるのか?という根本的な疑問には、一切答えていません。

別に3歳でも5歳でも20歳でも良いはずでしょ?

でも、残念ながら、9~12歳という年齢の根拠が示されていません。

また、子供は運動学習を理性的に分析しない…と言いますが、だからと言って全てを大人の言われたままにしているわけではないですよね。

子供なりに、いろいろと考えて運動しているのです。

そもそも子供は、ロボットではありませんからね(笑)。

ここまで来ると、ゴールデンエイジの理論は単なるこじつけにしかなりません。

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さて次は、ゴールデンエイジを裏付ける3つの理論のうちの三つ目である「脳の可塑性」について詳しく解説します。

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