【ゴールデンエイジの間違いと真相】
(1)3つの科学理論の考察
ゴールデンエイジの根拠とされる「スキャモンの成長曲線」、「即座の習得」、「脳の可塑性(かそせい)」という3つの科学理論との関係について、次のとおり要点をまとめたのでお読みください。
①スキャモンの成長曲線
ゴールデンエイジの理論の主張
スキャモンの成長曲線は、亡くなった子供たちを解剖し、個々の臓器の容量や重さを量り、グラフとしてまとめた医学資料ですが、このうち神経系型は出生と同時に急激に上昇し、12歳ごろに容量や重さがピークになるとされています。
これに対してゴールデンエイジの理論は、この部分を根拠として、9~12歳までが運動学習最適期になると提唱しています。
矛盾と間違い
スキャモンの成長曲線による神経系型の容量や重さは「量的」な分析ですが、運動学習能力は例えばテクニックがどの程度まで上達したのか?という「質的」な分析です。
そうすると、量と質を比較分析するのは科学的には無理なので、スキャモンの成長曲線を根拠とするのは科学的に矛盾します(そもそも量と質は科学的に比較できない)。
もっと簡単に言うと、プレスラーとプロボクサーが試合をしようとしても、そもそもルールが違うので本来的には競技が成り立たない…のと同じことなのです(ちなみに昔モハメッド・アリとアントニオ猪木が試合をやりましたが、これはあくまでも見世物的な興行です)。
また仮に量と質の比較分析が可能であり、神経系型の容量や重さが運動学習能力と一致するのであれば、全ての子供がそろって同じ運動能力に成長するはずです。ところが、実際には上手い子もいればそうでない子もいるという矛盾があります。
さらに、12歳を過ぎても神経系型の容量や重さのピークの状態は続いているので、運動学習最適期も続いて良いはずです。だから運動学習最適期を9~12歳までに限定するのは間違いです。
②即座の習得
ゴールデンエイジの理論の主張
脳神経系の臨界期とは、ヒトや動物の脳の働きが乳幼児期の経験によって変わることを指したもので、例えばひな鳥が、おもちゃを親鳥と思って追いかける行動は孵化後の8~24時間の間だけに限られます(この8~24時間が臨界期)。
これに対してゴールデンエイジの理論は「運動機能には明確な臨界期は存在しないものの、これに相当する時期はある」として、ドイツの運動学者マイネル(1898-1973)の「運動学」という書籍(脳神経細胞の成長は9~12歳までに完成するというもの)からの引用により、9~12歳までが即座の習得に最適な時期と提唱しています。
矛盾と間違い
マイネルの「脳神経細胞の成長は9~12歳までに完成する」という点と、ゴールデンエイジの運動学習最適期は9~12歳である…、という、お互いの理論の因果関係がハッキリしていません。
因果関係とは、晴天の日が続いた(原因)から高温の日が続いた(結果)という程度の科学的な検証が必要です。
ところが原因と結果の関係ではなく、単に関連性があるとか推測をしたというだけなので、そもそも、9~12歳までが即座の習得に最適な時期という発想は間違いです。
また12歳を過ぎると運動機能は脳神経系の臨界期なので、即座の習得は出来ないという根拠をハッキリ示していません。
③脳の可塑性
ゴールデンエイジの理論の主張
脳の可塑性とは、脳細胞が変化して成長するという理論です。
これに対してゴールデンエイジの理論では、9~12歳の子供の脳には可塑性があるが、20歳頃にはゼロに近づくので、特定の運動を反復練習しても上手くならない…としています。
だから、9~12歳の子供は運動学習最適期ということだそうです。
矛盾と間違い
ブリティッシュ・コロンビア大学のララ・ボイド博士によれば、これまでの常識とされた脳の仕組みについて、2つの誤解を正しています。
A.脳は大人になっても常に変化し続ける。
B.脳は常に活発に働いている。
要するに最新科学では、脳の可塑性は何歳になっても変化及び成長をするので、特に9~12歳の子供が運動学習最適期とは言えないのです。
(2)ゴールデンエイジが発表された当時の状況
①Jリーグ発足当時の状況
ゴールデンエイジの理論が作られたきっかけは、日本サッカー協会がJリーグ発足当時の各クラブに、ジュニア~ユースまでの育成組織の運営上のガイドラインが必要だったからです。
そのために提唱されたのが、ゴールデンエイジの理論なのです。
当時は、Jリーグの発足が迫っていたので慌ただしかったのでしょう。
そうした意味では、間に合わせで作ったようなもの(やっつけ仕事のようなもの)なのです。
だからゴールデンエイジ理論は、「スキャモンの成長曲線」、「即座の習得」、「脳の可塑性(かそせい)」を引用してまとめただけで、科学的な検証は全く存在しません。
つまり、日本サッカー協会の都合に合わせて作られたわけですね。
でも「えっ?そんなことなんて考えたこともない…」という方は多いかも知れません。
日本人は権威主義的で大人しい民族なので、日本サッカー協会という権威ある立場の人々が言ったことを盲信する傾向があります。
そもそもスポーツ科学は歴史の浅い研究分野です。
例えば、昔は試合中に水を飲むな…と言われていましたが、現在では水分補給が当たり前になっていますし、時代は進化しているのです。
つまり、ゴールデンエイジは、しょせんはこの程度のレベルと考えた方が良いわけですね。
②脳の最新科学と日本人の誤解
先ほどのララ・ボイド博士の動画によれば、日本サッカー協会がゴールデンエイジの理論を発表した同じ時期(30年前)に、脳の可塑性は20歳でゼロになることはなく、何歳になっても変化及び成長するという事実が発見されたと説明しています(つまりゴールデンエイジを過ぎても、サッカーは上手くなるということ)。
繰り返しますが、ゴールデンエイジの発表と、脳の可塑性の新発見が同じ時期ですよ。
つまり、ゴールデンエイジは間違っていたのに、発表してしまったということですね。
皮肉なことに、多くの日本人はこの事実を知らずにいて、日本サッカー協会も知ってか知らずか分かりませんが、このまま放置したために後戻りできなくなったのでしょう。
でも、その後で何が起きたと思いますか?
実は幼少期からの早期スポーツ専門化が起きているのです。
これは、スポーツを始めるなら早い方が良いということで、例えば、3~4歳からサッカーを始める…という親御さんの考えですね。
そもそも、サッカーは野球やテニスなどと同じで、特定の筋肉や関節を使い続けるスポーツのため、成長が未熟な幼児にとっては体に大きな負担をかけます。
そのため、本来であれば数年程度の期間をかけていろいろな運動を経験させるという、いわば準備期間が必要なのです。
たしかに、ゴールデンエイジのパンフレットにも、8歳以下の子供はプレゴールデンエイジとして、ゴールデンエイジに向けた運動の基本動作(投げる、打つ、走る、跳ぶ、蹴る)を反復して、全身をたくさん使うような運動も取り入れるよう推奨しています。
でも、親御さんからすれば、ゴールデンエイジの9~12歳までの運動最適期があるのなら、もっと早くから始めた方が良い…と考えてしまうのは無理もないと思います。
また、ゴールデンエイジで人生は決まってしまう…などという愚かしい発想が起きてしまうわけですね。
その結果、子供たちは慢性的なケガとテクニックの伸び悩みという問題に直面しているのです。
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さらにこうした点に関して、早稲田大学スポーツ科学学術院教授の広瀬 統一( ひろせ・のりかず )氏は次のように述べています。
ゴールデンエイジ理論が広く知られる過程で、いくつかの誤解も生じています。
一つは、ゴールデンエイジはあくまでも技術獲得の敏感期であり、臨界期ではないことです。
すなわち、この時期を過ぎると技術が身につかないというわけではないのです。
この解釈を間違えると、指導者や保護者は「この時期しか技術が身につかない」と思い込み、長時間の単一的な技術練習が重要と思い込んでしまうかも知れません。
出典引用:早期スポーツエリート教育は「悪」か
要するに日本のスポーツ科学の第一人者さえも、ゴールデンエイジを過ぎても子どものスポーツのテクニックは伸びる余地が十分にある…と主張しているのです。
また合わせて早期スポーツ教育にも警鐘を鳴らしているわけですね。
そうした意味でも、ゴールデンエイジは脳科学やスポーツ科学の最新の研究成果を知らない日本人の誤解が生んだ一種の悲劇だと思います。
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【まとめ】
これまでゴールデンエイジの理論の疑問点をいろいろと解説しました。
特にゴールデンエイジの根拠とされる「スキャモンの成長曲線」、「即座の習得」、「脳の可塑性(かそせい)」という3つの科学理論に基づいた、9~12歳までが運動学習最適期という考えは矛盾と間違いに満ちています。
またゴールデンエイジの理論は、どうして9~12歳までが運動学習最適期なのか?12歳を過ぎると本当に運動学習には適さないのか?何をやってもダメなのか?という点には一切答えていません。
私と同じように、こうした疑問を感じているお父さんやお母さんたちも多いのではないでしょうか?
私から言わせれば、そんなこと気にしなくても良いです!と強く言えます。
なぜなら、先ほども解説したとおりゴールデンエイジは矛盾と間違いだらけだからです。
あなたはサッカーばかりやっていた人たちの意見と脳科学や医学の専門家の意見を比べたら、どちらが正しいと思いますか?
それでも、あなたは間違いだらけのゴールデンエイジを信じますか?