【体力の問題】
(1)体力の無駄遣い
ハイプレス戦術を続けるうえで必要とされる選手の適性は3つあり、それはインテンシティー(強度)、アジリティー(敏捷性)、持久力です。
もちろん一定レベルのテクニックが必要なのは言うまでもありません。
このように言葉では簡単に言えますが、やはりハイプレスを一試合通して続けるのは選手にとってかなり過酷のように思えますよね。
実際にもプロの試合では前半を頑張っても、後半になると足が止まってプレスが続かない…というシーンがよく見られます。
いわゆる体力の問題ですね。
これに対して、日本の育成年代の指導では「90分間走り切る…」とか「マラソンのような持久力が必要…」などの安易な発想が蔓延しています。
また試合で体力を出し切る(走り切る)という発想はあるものの、試合中に体力の消耗を防いだり温存する…という、マラソンのペース配分のような考え方はありません。
この場合、トレーニングによって身に付けた体力を実際の試合で使う際に大切なのは、いかにして無駄遣いによる浪費を防ぐのか?という点です。
簡単に言えば、ここ一番!の時に使える体力を温存しようという考え方ですね。
特にジュニアやジュニアユースの年代では状況判断の能力が低いので、どうしても無駄な走りが多すぎると思います。
またこれに輪をかけて監督やコーチたちが「走れ!」と繰り返しますからね。
そうした点でブラジル代表の試合運びは参考になります。
(2)体力の温存と判断力
日本代表はブラジル代表と試合するといつも負けますが、これは単にテクニックや戦術だけの問題ではありません。
最も大きな違いは、試合運びの上手さと体力の使い方です。
例えば試合開始直後の15分くらいで猛攻を仕掛けることが多く、そこで点が取れれば、いったんパスを回して休みます。
もしもそこで点が取れなかったら、今度は相手にボールを持たせてパスを回させます。
そして相手のミスを狙ってカウンターを仕掛けるため、ひたすらチャンスを待つのです。
また、このようにボールを相手に持たせる時間帯は、あまり積極的に奪いに来ません。
その理由はムダな体力を使わないためです。
とにかく相手のミスを待って一気に攻撃するわけですね。
そうすると基本的には短時間で攻撃して、あとは休んでいるだけなのです。
いわばふだんゴロゴロしている猫が、獲物を捕まえる時に豹変するのと同じですね。
こうした試合運びにとって重要なのは判断力です。
これに対して日本の子供たちは、試合の最初から最後までひたすら走り続けますよね。
しかも、こうした傾向は小学生~高校生はもちろん、Jリーガーでさえもほとんど変わりません。
テクニックや戦術はだいぶ進歩しましたが、体力勝負という考え方は今も昔も変わらないようです。
こうした原因の多くは、試合展開を読むだけの判断力とか試合の流れを把握するだけの能力(つまり状況判断)が選手にも指導者にも欠けているということです。
たしかにハイプレス戦術に必要なのは、体力であることは間違いありません。
だからと言って体力を温存することも必要です。
別の見方をすると体力を温存することで、チャンスを待つという思考能力がフル回転するのではないでしょうか?
そもそも疲れ切っていたら頭は働かないですよね。
したがって日本の指導者たちは、単に「走れ!」と言うだけではなく、体力を温存する方法も教えつつ、試合展開を見極めるための正しい判断力を身に付けさせるべきだと思います。
【ハイプレスへの対策とポゼッションの使い分け】
(1)ハイプレスへの対策
ハイプレスはディフェンスラインを高くするので、相手が裏を狙ってロングキックを蹴る場合があります。
この時にもしも裏を取られた場合は、一気にピンチになるケースがあるでしょう。
これが一般的に考えられている、ハイプレスへの対策です。
たしかにハイプレスは裏を取りやすい…と考える方も多いでしょうが、それは小中学生でよくありがちな足の遅い選手がセンターバックをやっている場合です。
ふつうハイプレスを取り入れているチームのセンターバックは、フォワードと同じくらいの身体能力や足元のスキルを持つ選手が務めるポジションです。
またこのポジションは、オフサイドトラップを指示するなどの状況判断能力も兼ね備えている選手を配置しています。
さらにゴールキーパーにも優秀な存在が求められます。
もしも足が遅かったりテクニックに見劣りがあったり判断能力の低い選手をセンターバックやゴールキーパーにさせていたとしたら、そのチームの監督やコーチたちの資質が疑われます。
つまりハイプレスへの対抗策(相手のロングキック)を回避するためには、優秀なセンターバックやゴールキーパーの存在が不可欠であって、これが最大の対策と言っても良いでしょう。
実際にも2018年シーズンのチャンピオンズリーグと2019年のクラブワールドカップで優勝したリバプールFCの躍進の決め手は、センターバックのファンダイクとゴールキーパーのアリソンの加入によるところが大きかったです。
彼らがいたからこそ、3トップのサラー、マネ、フィルミーノが思う存分攻撃に専念できたのです(もちろんハイプレスも積極的にやりました)。
私が思うにハイプレス戦術を使うチームでセンターバックやゴールキーパーを選ぶ場合は、体格にもよりますがチーム内で最も優秀な選手がそれぞれ務めても良いくらいだと考えています。
その一方で相手のロングキックに備えて、もしもディフェンスラインを下げてしまうと、今度は守備ブロックが間延びしてしまうので相手に中盤を支配されてしまいますよね。
こうしたシーンは日本代表の試合でもよく見られます。
そうならないためにも、むしろ相手がロングボールを蹴って来たらそのボールを回収して攻撃に移れるくらいのテクニックの指導を徹底するべきだと思います。
それに、そもそもサッカーにはオフサイドというルールもあるので、相手のロングキックに右往左往するべきではありませんよね。
(2)ポゼッションの使い分け
ハイプレスは相手陣内でボールを奪って攻撃時間を長くすると言う特徴がありますが、特に相性が良いのがショートカウンターです。
なぜなら相手陣内でボールを奪うということは数的優位になりやすく、速い攻撃=ショートカウンターを仕掛けた方が得点しやすいからです。
例えば次の動画のようにビルドアップでボールを奪った時に、味方と連携すればシュートまで持ち込めますよね。
こうして考えるとハイプレス+ショートカウンターは効果抜群なので、もはやポゼッションは時代遅れという意見さえも見られます。
でも本当にそうでしょうか?
この場合、実際の試合ではビルドアップでのハイプレスを回避して中盤にボールが来たら、どこのチームでもポゼッションをしながらゴールを目指してパスを繋ぎます。
なぜなら元々どのチームでもお互いにディフェンスラインを高くしているので、中盤では敵と味方が入り乱れて密集地帯(つまりコンパクトになっている)になっていることから、そう簡単には早い攻撃が出来ないからです。
そうした意味で中盤では相手にボールを奪われないために、先ずは確実なポゼッションが必要になるわけですね。
これに対してショートカウンターが成功する条件は、敵が少なくて数的優位が作りやすい場合に限られます。
先ほどの動画でも、ボールを奪った直後に簡単に数的優位になりましたよね。
そうした意味でハイプレスからショートカウンターを狙う場合は、相手のビルドアップやそれに近い状況の時のように、数的優位が作りやすい局面を狙った方が成功しやすいのです。
どちらかと言えば、ワンチャンスを狙うようなものですね。
だから中盤で相手チームがポゼッションをしている時にボールを奪ったからと言っても、例えば目の前にいるのはセンターバックの2人だけというような場合を除き、すぐにショートカウンターを仕掛けるよりは、先ずは確実なポゼッションが必要になるわけですね。
しかもハイプレスはただでさえも体力が消耗するので、さらに輪を掛けるようにショートカウンターを繰り返していたら選手たちのスタミナがあっという間に切れてしまいます。
そうした意味で、ハイプレス、ショートカウンター、ポゼッションは局面に応じて使い分けるべきであって、決してポゼッションが時代遅れということはないのです。
それに今でもバルサはポゼッションを使いますし、ハイプレスもやりますからね。
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【まとめ】
これまでハイプレスの守備戦術について、いろいろと解説しました。
このうちハイプレスをとても簡単に言うと、次の2通りに分けられます。
一つ目は、相手チームがビルドアップしている時にディフェンスラインにプレスをかけてボールを奪う。
二つ目は、相手陣内でボールが奪われた時に直ぐにプレスをかけてボールを奪い返す。
またハイプレスは体力の消耗が激しいので、日本の指導者たちは単に「走れ!」と言うだけではなく、体力を温存する方法も教えつつ試合展開を見極めるための正しい判断力を身に付けさせるべきだと思います。
さらにハイプレスの対抗策としてロングキックが考えられますが、その場合は優秀なセンターバックとゴールキーパーを配置しつつ、むしろ相手がロングボールを蹴って来たらそのボールを回収して攻撃に移れるくらいのテクニックの指導を徹底するべきです。
その一方で、ポゼッションが時代遅れという意見もありますが、実はそうではなく、ハイプレス、ショートカウンター、ポゼッションを局面に応じて使い分けましょう。
いずれにしても、ハイプレスは小学生からプロまでが取り入れている現代サッカーの基本的な守備戦術なので、ぜひ覚えてください。
【画像引用:Youtube.com】