【全身を使った蹴り方とは?】
(1)全身を使う意味
サッカーのキックで、パワーを生み出すのは足の重さや筋力で、スピードを引き出すのは縦回転の遠心力でしたよね。
この場合、足の重さや筋力は、子供の成長によって徐々に発達するので、小学生や中学生がいくら筋トレをしても、すぐに効果が出るわけではありません。
だから、そうしたパワーに頼るのではなく、むしろ現在の自分の能力を基に、縦回転の遠心力をいかに大きく速くしてスイングスピードをアップさせるのか?という蹴り方を考えましょう。
その方がムダな時間と努力をしなくて済みます。
ちなみに、先ほどゴルフのスイングの例で「縦回転の遠心力を大きく速くすることで、ヘッドスピードが上がってボールが遠くに飛ぶ…」と解説しましたよね。
そこで、サッカーのキックのスイングスピードをアップする方法について、ゴルフのスイングを例にしながら考えてみましょう(サッカーの例は後述します)。
この場合、ゴルフの上手い人は遠心力を大きく速く(ヘッドスピードを上げる)するために、全身を使ってボールを飛ばしますが、こうした考え方は男子でも女子も同じです。
でも、ここで一つの疑問が出て来ませんか?
それは、なぜ非力な女子が遠くに飛ばせるのか?ということです。
実は、この点がサッカーのキック力アップのヒントになるのです。
次の動画は「なぜ腕力のあるおじさんは、女子プロよりも飛ばないのか?」というものです。特に、1:03からの解説は、サッカーのキック力を付けるための大きなヒントになります。
この動画では「女子プロとおじさんは体の柔軟性が違う…、女子プロはバックスイングの時に正面から背中が見えるくらいに大きくひねる…」と言っています。
これに対して、おじさんは体が硬いので、バックスイングが小さくなって背中が見えないそうです(遠心力が小さくなってスイングスピードが遅くなる)。
また、おじさんはスイングスピードを挽回するために、腕の力だけで打とうとする…と解説しています。
つまり、おじさんは腕のパワーに頼ろうとしますが、女子プロはバックスイングを大きくすることで、全身を使ったショットをしているのです(遠心力が大きくなってスイングスピードが速くなる)。
そうすると、この考え方をサッカーのキック力に応用すれば、足の力に頼ってはダメで、全身を使ってスイングスピードを上げるのが重要…というわけですね。
これを別な言い方をすると、サッカーは足の力だけで蹴っていてはダメということです!
また、この考え方はプロのサッカー選手でも、女子でも子供でも変わりません。
そこで、次に一般男性よりも非力な子供と女性のキックの例を考えてみましょう。
(2)子供と女性の例
サッカーのキックで、全身を使ってスイングしているかどうかは、バックスイングの大きさと上半身の使い方を見るとよく分かります。
①子供の例
次の画像は、私の息子「とも」が小1の頃のインステップキックを蹴っている時の様子ですが、軸足から踏み切って、バックスイングが大きいですよね。
また、左腕を水平に伸ばしていますが、これは背骨のバネ作用と筋肉の伸張反射を使ってスイングスピードを速くしているためです(詳細は練習法の箇所で後述します)。つまり全身を使って蹴っているわけですね。
私は30年前にブラジル・サンパウロのサッカークラブでジュニアとジュニアユースのアシスタントコーチをしていましたが、当時の子供たちへの指導は自由放任でした。
その狙いは、全身を使った蹴り方を自然に覚えさせるためです。
そのため、息子の「とも」に対しても、ここをこうして…、ああして…というような細かい教え方は一切せず、自由に蹴らせていたら自然と全身を使った蹴り方を覚えたのです。
ところが日本では、子供がクラブチームや少年団に入ると、コーチたちから「こうあるべき」というように蹴り方を矯正されてしまいます。
しかも日本のサッカーは、先ほどのおじさんゴルファーが腕の力に頼ってスイングするのと同じように、足の力を使った蹴り方を指導するので、一時的には遠くに飛ばせたとしても、それだけではやがて限界が来るのです。
そもそも子供は非力なので、どのようなスポーツでも、ふつうなら自然と全身を使ってパワーとスピードを出そうとします。
でも、結局は矯正されて、足だけを使うようになってしまうわけですね。
むしろそうではなく、よほど変な蹴り方をしない限り、子供には自由に蹴らせて、先ずは全身を使うキックを覚えさせるべきではないかと思います。
また、そうしたキックを覚えた後で、微調整として細かい点をアドバイスをする…というのが最適です。
そうすることによって、本当の意味でキック力のアップに結び付くのではないでしょうか?
そうした意味では、なでしこジャパンの次の二人の蹴り方は対照的です。
②女子の例
女子の場合は子供と同じように、やはり非力なので、ふつうは全身を使ったキックになるのですが、宮間選手と田中選手は相反する蹴り方をしています。
宮間あや
宮間選手は、小柄でそれほどパワーもないため、バックスイングが大きく、全身を使った蹴り方をしています。とてもリラックした蹴り方で、スイングスピードも速いですね。
先ほどの「とも」の蹴り方と比べると撮影アングルが違うので、少し分かりにくいですが、全身を使うという点は変わりません。
ちなみに、彼女の蹴り方はFCバルセロナのメッシのキックフォームとほぼ同じです。
メッシは身長169㎝と小柄ながら、全身を使ってキックするのでプロの中でもトップクラスのスピードです。
そうした意味では、メッシも宮間選手も全身を使った教科書的なキックと言っても良いでしょう。
田中陽子
田中選手は左右でフリーキックを蹴りますが、両方のバックスイングを比べると興味深いことが分かります。
右足で蹴る時はバックスイングが小さく、左腕が曲がっているので、どちらかと言えば足の力に頼った蹴り方をしています。
これに対して左足で蹴る時はバックスイングが大きく、右腕が大きく伸びているので宮間選手の蹴り方と同じように全身を使っているようです。
たぶんこの違いは、彼女が元々右利きで、左足で蹴る時はパワー不足(筋力の問題)のため、無意識のうちに全身を使った蹴り方をしているのでしょう。
そうした意味では、右足で蹴る時も、全身を使った蹴り方に変えれば、もっとキック力がアップすると思います。
ちなみに彼女は小学校を卒業した後に、JFAアカデミー福島(日本サッカー協会が運営する中高一貫教育)に入学したそうですが、その際に典型的な日本の蹴り方を覚えてしまったのかも知れません。
【キックの仕組みと全身運動のまとめ】
今回の記事は専門的でかなり分かり難かったので、これまで解説したキックの仕組みと全身を使った蹴り方をいったんまとめておきましょう。
(1)先ず、育成年代の子供たちがキック力をアップするためには、
① 最初に全身を使った蹴り方を覚える。
② 次に、キックフォームの細かい点を微調整すれば良い。
(2)キックの基本の仕組みとしては、
① パワーを生み出すのは、足の重さや筋力。
② スピードを引き出すのは、縦回転の遠心力。
したがって、パワー×スピード=キック力になるわけです。
(3)全身を使った蹴り方とは、
縦回転の遠心力を大きく速くして、スイングスピードをアップさせること。
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さて次は、これまで解説した内容を踏まえて、いよいよキック力をアップするための練習法について解説します。
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