ブラジルでのコーチの経験を活かして、 サッカー未経験の方にも分かりやすく科学的で正しい理論をご紹介します

キックの蹴り分けの意味と正しい使い方とは?

 キックの蹴り分けとは、全く同じフォームで真っ直ぐ蹴ったりカーブやアウト回転をかけることです。
 そうすることで、相手に蹴る方向が読まれ難く「裏をかく、騙す」という、ブラジルのマリーシアにも似た心理技術が身に付きます。
 そこで、今回はキックの蹴り分けの正しい意味、軸足との関係、蹴り分けの具体例などを解説します。

スポンサーリンク

1.キックの蹴り分けの正しい意味

 日本の育成指導でのキックの蹴り分けは、例えば近くに蹴るか?遠くに蹴るか?という単なるテクニックの違いと考える指導者が多いです。
 ところがキックの蹴り分けは、試合の駆け引きという心理的要素を含んだ大切な技術です。
 そこで次に、キックの蹴り分けの正しい意味を解説します。

(1)蹴り分けが必要な理由

 試合中、守備側がパスコースやシュートコースを予測するのは、キッカーが蹴る直前のモーションに入った時点で判断します。
 具体的には、インパクト直前までのキックフォームです。
 例えば、ほとんどのキックは軸足を向けた方向に蹴るため、キッカーの軸足が右を向いていれば右側にパスやシュートが来る…とコースを予測することが出来るのです。

軸足を向けた方向に蹴る小学生

 こうした場合、キッカーの軸足が真直ぐ前を向いていたとしたら、相手は「前に向かってパスを蹴るだろう…」とパスコースを予測出来ます。
 ところが真っ直ぐ蹴るようなキックフォームのままで、インパクトの瞬間に左右のどちらかの味方に蹴り分けることが出来れば、相手DFの反応が遅れるのでボールを奪われません。
 そうすると試合展開が有利になるのです。
 つまり、これがキックの蹴り分けの正しい意味です。

 こうした蹴り分けは、キックを遠くに強く蹴るとか、大きく曲げるなどという単純なテクニックではありません。
 どちらかと言えば相手の裏をかくとか、騙すという心理的な要素を含んだ駆け引きです。
 別の見方をすると、相手にパスコースが読まれているのにも関わらず、正直に蹴って相手にボールを奪われるよりも、相手を騙してでも取られないことの方が大切なのです。

(2)野球の例

 野球はサッカーと違って手でボールを扱う球技ですが、キックの蹴り分けに似た考え方は小学生~大人まで幅広く定着しています。
 例えばピッチャーは同じ投球モーションで直球と変化球を投げ分けることで、バッターのタイミングを外して打ち取ることが出来ます。

 また相手の裏をかくという考え方は、サッカーよりも野球の方が進んでいます。
 日本の野球はメジャーリーグと違って、「相手の裏をかく、騙す」という心理戦を多用する傾向があります。
 例えばバッターに緩い球を見せた後に速球を投げたり、次はそろそろ直球と思わせておいて変化球を続けて投げることなどです。
 しかも、小中学生の育成年代から当たり前のように指導されています。

野球のピッチャー

 こうした心理的なテクニックが日本に広く普及した理由は、野球が将棋や囲碁のように攻撃と守備がハッキリと分かれ、じっくりと考えられるスポーツとして親しまれたからでしょう。

 それとは反対に攻守が目まぐるしく変わるサッカーは、状況判断のスピードが必要です。
 そうすると野球と違って、じっくり考えることが出来ません。
 そのため思慮の浅い単調なプレーが多くなりがちです。
 だから、つまらないということで、人気が少なくなって日本に根付かなかったのでしょう。
 昔からサッカーよりも、野球の方が人気が高い理由の一つだと思われます。

 そもそも日本は野球では先進国ですが、サッカーでは後進国です。
 日本のサッカーが先進国の仲間入りするためには、テクニックや戦術の習得だけでは無理があります。

 育成年代の子供たちには、キックの蹴り分けを単なるテクニックとして身に付けるのではなく、「相手の裏をかく、騙す」という心理戦の考え方を習得してほしいと思います。

スポンサーリンク

(3)蹴り分けは必ず利き足を使う

 キックの蹴り分けは、例えば右利きの選手が右サイドに蹴る時に、左足に持ち替えて蹴る…という程度の技術ではありません。
 あくまでも利き足を使った同じキックフォームで、真っ直ぐ蹴ったり、カーブやアウト回転をかけるというテクニックです。
 こうすることによって、初めて「相手の裏をかく、騙す」というプレーが成り立つのです。
 そこで、次に利き足で蹴り分けることの意味を解説します。

 そもそも利き足を使ってボールを蹴る場合、スムーズに蹴りやすい範囲というものがあります。
 それは、利き足の前から軸足(逆足)のほぼ90度の角度です。

スムーズに蹴りやすい範囲

 例えばPK戦の場合、右利きの選手は向かって左側に蹴ることが多いです。
 これは、ヒトにとってスムーズに蹴りやすい範囲があるため、無意識のうちにそのコースを蹴ろうとする習性があるからです。

PK戦で右利きの選手が左側に蹴る様子

 こうした現象が起きるのは、ヒトの骨格と視野の構造に関係します。

 そこで、先ず骨格の方を考えてみましょう。
 ヒトが前に歩く時は、股関節や膝を曲げることによって力が入るようになっています。

 その際、股関節と周辺の筋肉群は体の内側に向って力が入りやすい構造になっています。
 これは、ヒトが二本足で立ったり歩いたりする動作を支えるためです。

 もしも、体の内側に向って力が入らなかったら、ヒトは立つことさえできなかったでしょう。

股関節と周辺の筋肉群が体の内側に向って力が入りやすい構造

 一方、キックの動作における蹴り足は、フォロースルーにかけて体の前や軸足方向に流れます。
 その理由はヒトの足は、力を入れた方向に動こうとする性質があるためです。
 だからボールを蹴った時の足は、力の入りやすい方向(体の前や軸足方向)に動こうとするのです。

 このようにヒトの骨格の構造を考えると、キックの蹴りやすい範囲は蹴り足の力が入りやすい方向とほぼ同じになるのです(右利きなら前か左方向に蹴りやすく、左利きならその反対)。

キックの蹴りやすい範囲は蹴り足の力が入りやすい方向とほぼ同じ

 それでは次に、ヒトの視野を考えてみましょう。
 ヒトの日常生活での視野は、通常180~200度です。
 ところが、スポーツなどで動き回る時は視界が狭くなります。
 サッカーでキックをする場合も、周囲の状況(相手と味方、パスやシュートコースなど)が目まぐるしく変化するので、さらに視野が狭まります。

 一方、先ほど解説したキックの蹴りやすい範囲は、ヒトの骨格という体の構造上の制約でしたよね。

 こうした身体構造の制約要因は、視野を司る視神経に対しても影響を及ぼします。
 これはヒトがキックをする時は、わざわざ蹴り難い範囲を意識しないということを意味します。
 そうすると、キックをする場合の蹴りやすい範囲(骨格の構造上の)だけが、視野の範囲になるのです。

キックをする場合の蹴りやすい範囲(骨格の構造上の)だけが視野の範囲

 つまりサッカー選手がキックする時は、骨格と視野の構造の影響によって、スムーズに蹴りやすい範囲が限定されるわけです。

 だから、PK戦で右利きの選手が左側に蹴ることが多いのは、こうしたスムーズに蹴りやすい範囲という特性に影響を受けているからなのです。

 こうした特性はボールを蹴る攻撃側の選手だけではなく、守備側の選手たちも持っています。
 例えば、右利きの選手が右足で蹴りやすいのは前方~左側の範囲なので、守備側もプレスやパスカットに備えて動く傾向があるのです。
 また守備側の選手が同じ右利きであれば、なおさら予測しやすいでしょう。

右利きの選手が右足で蹴りやすいのは前方~左側の範囲なので守備側もプレスやパスカットに備えて動く傾向があることを説明した画像

 このようなことは、攻撃側の選手が左利きであったとしても同じ現象が起きます。
 やはり左利きであってもキックの蹴りやすい範囲は決まっているので、守備側もプレスやパスカットに備えて反応出来るのです。

左利きであってもキックの蹴りやすい範囲は決まっているので守備側もプレスやパスカットに備えて反応出来ることを説明した画像

 それでは右利きの選手がボールを左足に持ち替えて蹴ったとしたら、守備側はどのように反応すると思いますか?

右利きの選手がボールを左足に持ち替えて蹴ったと時の守備側の反応の説明画像

 実は守備側の選手は無意識のうちに、相手の利き足が右→左に変わっただけと判断しているのです。

 つまり、攻撃側の選手の蹴りやすい範囲を一瞬のうちに判断して、新たな予測の基でキックに反応するのです。
 こうした守備側の判断の切り替え能力はかなり早く、むしろ攻撃側の利き足が最初から左であったかのような認知反応になります。

守備側の選手が相手の利き足が右→左に変わっただけと判断する説明画像

 したがって、ボールを左右に持ち替えて蹴ったとしても、次のプレーが守備側に簡単に予測されてしまうわけです。
 これでは「相手の裏をかく、騙す」というプレーは成り立ちません。

 以上のように、左右のどちらで蹴ってもキックの蹴りやすい範囲は限定されています。

 そうした中で、利き足を使って同じキックフォームで真っ直ぐ蹴ったり、カーブやアウト回転をかけることは「相手の裏をかく、騙す」という大人のプレーになるわけです。

 別の言い方をすれば、蹴り分けは利き足特有のテクニックとも言えるでしょう。

スポンサーリンク

(4)蹴り分けと育成年代の指導

 日本サッカーの育成年代の指導では、キックは目標に対して軸足を向けて蹴ることを推奨したり、距離や強さの変化だけを重視する傾向があります。
 つまり近くに蹴るか?遠くに蹴るかという程度の違いです。
 また、距離に応じて蹴り方を加減するのが蹴り分けである…、と勘違いする指導者も多いです。

 さらに、右利きの選手が右サイドに蹴る時に左足に持ち替えて蹴る…、という程度の技術を蹴り分けと考えている指導者さえもいます。
 そうした指導者は、両足を使いこなせば優秀な選手と判断する傾向があります。
 その理由は、日本では両足を均等に使いこなすという考え方が根強いからです。

 ところが海外では利き足を使って同じキックフォームで、真っ直ぐ蹴ったり、カーブやアウト回転をかけるというテクニックが当たり前とされています。

 そうした現状にも関わらず、日本の指導者には蹴り分け自体の考え方が理解出来ていません。
 これでは状況に応じてパスコースやシュートコースを変えるなどの、「相手の裏をかく、騙す」というプレーは難しいでしょう。
 やはり利き足で蹴り分けない限り、ほとんど意味がないのです。

 こうした蹴り分けの考え方は野球の心理戦に近いですが、どちらかと言えばブラジルサッカーのマリーシアにも似ています。
 日本では未だに正々堂々と…などと、とても呑気なサッカー指導者が多いですが、ブラジルのようなサッカー先進国に近づくためにも、こうしたマリーシア的な指導も大切にしてほしいと思います。

 ※マリーシアを詳しくお知りになりたい方は、次の記事をお読みください。
 マリーシアの本当の意味!日本サッカーに今必要な理由とは?

ブラジル代表

 私が考える指導の指針としては、目標に向かって正確に蹴るのは小学生年代までにマスターしてほしいです。
 また中学生年代からは、利き足を使った同じキックフォームで、いろいろな方向に自由自在に蹴り分けられるテクニックを学んでほしいとも思います。

 さて次は、キックの蹴り分けで特に大切な軸足との関係を詳しく解説します。
大切な内容なので、ぜひお読みください!

※この続きは、すぐ下の四角のボタン「2」を押してください。