ブラジルでのコーチの経験を活かして、 サッカー未経験の方にも分かりやすく科学的で正しい理論をご紹介します

キックの蹴り分けの意味と正しい使い方とは?

キックの蹴り分けとは、利き足を使って、全く同じフォームで真っ直ぐ蹴ったり、カーブやアウト回転をかけることです。

そうすることで、相手に蹴る方向が読まれず「裏をかく、騙す」というブラジルのマリーシアにも似たスキルが身に付きます。

そこで、今回はキックの蹴り分けの正しい意味、軸足との関係、蹴り分けの具体例などを解説します。

※この記事は4つのページに分かれているので、順番に読んでも良いですし、直接それぞれのページを読んでいただいても結構です。

1ページ目(このページに書いてあります)
【キックの蹴り分けの正しい意味】

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【キックの蹴り分けと軸足】

3ページ目(←クリック!)
【蹴り分けの具体例】
(1)インフロントキック
(2)アウトフロントキック
(3)カーブ

4ページ目(←クリック!)
(4)体幹を使った蹴り分け
(5)インステップキック
(6)インサイドキック
【まとめ】

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【キックの蹴り分けの正しい意味】

日本の育成指導でのキックの蹴り分けは、例えば近くに蹴るか?遠くに蹴るか?という程度に考える指導者が多いですが、実際には試合の駆け引きという心理的要素を含んだ大切な技術です。

そこで次に、キックの蹴り分けの正しい意味を解説します。

(1)蹴り分けが必要な理由

試合中、守備側がパスコースやシュートコースを予測するのは、攻撃側がキックモーションに入った時点で判断します。

この場合、ほとんどのキックは軸足を向けた方向に蹴るため、軸足が右を向いていれば、守備側は「右側にパスやシュートが来る…」とコースを予測出来るのです。

例えばキッカーの軸足が真直ぐ前を向いていたとしたら、相手は「前に向かってパスを蹴るだろう…」とパスコースを予測出来ますよね。

ところが真っ直ぐ蹴るようなキックフォームのままで、インパクトの瞬間に左右どちらかの味方に蹴り分けたら、相手DFの反応が遅れるのでボールを奪われません。

つまり、これがキックの蹴り分けの正しい意味です。

こうした蹴り分けは、キックを遠くに強く蹴るとか、大きく曲げるなどという単純なテクニックではありません。

どちらかと言えば、相手の裏をかくとか騙すという心理的な要素を含んだ駆け引きであって、相手を騙してでもボールを取られないのが大切なのです。

(2)野球の例

野球は、小学生~大人まで、サッカーのキックの蹴り分けに似た考え方が幅広く定着しています。

特に、相手の裏をかくという考え方は、サッカーよりも野球の方が進んでいて、一種の騙し合いのような心理戦を多用する傾向があるようです。

例えば、ピッチャーがバッターに速球を見せた後に遅い球を投げたり、次はそろそろ直球と思わせておいて変化球を投げてタイミングを狂わす…などですね。

しかも、こうしたテクニックは、小中学生の育成年代から当たり前のように指導されています。

こうしたスキルが日本に広く普及した理由は、野球が将棋や囲碁のように攻撃と守備がハッキリと分かれ、じっくりと考えられるスポーツとして親しまれたからでしょう。

それとは反対に攻守が目まぐるしく変わるサッカーは、状況判断のスピードが必要なため、野球と違って、じっくり考えられません。

そのため思慮の浅い単調なプレーが多くなり、その結果つまらないということで、日本に根付かなかったのでしょう。

昔からサッカーよりも、野球の方が人気が高い理由の一つだと思います。

そもそも日本は野球では先進国ですが、サッカーでは後進国です。

日本のサッカーが先進国の仲間入りを果たすためには、テクニックや戦術の習得だけでは無理がありますし、正々堂々なんて呑気に考えていたら相手の思うつぼです。

だからこそ育成年代の子供たちには、キックの蹴り分けを単なるテクニックとして身に付けるのではなく、野球のように「相手の裏をかく、騙す」という心理戦の考え方を習得してほしいと思います。

さいて、次は蹴り分けと利き足の関係、育成年代の指導について解説します。

(3)蹴り分けは必ず利き足を使う

キックの蹴り分けは、あくまでも利き足を使った同じキックフォームで、真っ直ぐ蹴ったり、カーブやアウト回転をかけるというテクニックです。

この場合、利き足を使う時は、利き足の前から軸足(逆足)のほぼ90度の角度が蹴りやすい範囲とされています。

例えばPK戦の時、右利きの選手は向かって左側に蹴ることが多いですよね。

これは、ヒトにとって蹴りやすい範囲があるため、無意識のうちにそのコースを蹴ろうとする習性があるからです。

こうした現象が起きるのは、ヒトの骨格と視野の構造に関係します。

そこで、先ず骨格の方を考えてみましょう。

ヒトが前に歩く時は、股関節や膝を曲げることによって力が入るようになっています。

その際、ヒトが二本足で立ったり歩いたりする動作を支えるため、股関節と周辺の筋肉群が体の内側に向って力が入りやすい構造になっています。

もしも、体の内側に向って力が入らなかったら、ヒトは立つことさえできなかったでしょう。

その一方で、キックの蹴り足は、フォロースルーにかけて体の前や軸足方向に流れます。

その理由はヒトの足が、力を入れた方向に動こうとする性質があるためです。

だからボールを蹴った時の足は、力の入りやすい方向(体の前や軸足方向)に動こうとするのです。

このようにヒトの骨格の構造を考えると、キックの蹴りやすい範囲は、蹴り足の力が入りやすい方向とほぼ同じになります(右利きなら前か左方向に蹴りやすく、左利きならその反対)。

それでは次に、ヒトの視野を考えてみましょう。

ヒトの日常生活での視野は通常180~200度ですが、スポーツなどで動き回る時はさらに狭くなります。

この場合、サッカーでは周囲の状況(相手と味方、パスやシュートコースなど)が目まぐるしく変化するので、さらに視野が狭まります。

その一方で、先ほど解説したキックの蹴りやすい範囲は、ヒトの骨格という体の構造上の制約でしたよね。

こうした身体構造の制約要因は、視野を司る視神経に対しても影響を及ぼします。

これはヒトがキックをする時は、わざわざ蹴り難い範囲を意識しないことを意味します。

だから、キックの蹴りやすい範囲(骨格の構造上の)だけが、視野の範囲になるのです(それを防ぐために、首を振って周りを見る→視野を広げる)。

つまりサッカー選手がキックする時は、骨格と視野の構造の影響によって、蹴りやすい範囲が限定されるわけですね。

だから、PK戦で右利きの選手が左側に蹴ることが多いのは、こうした蹴りやすい範囲という特性に影響を受けているのです。

こうした特性はボールを蹴る選手だけではなく、守備側の選手たちも持っています。

例えば、右利きの選手が右足で蹴りやすいのは前方~左側の範囲なので、守備側も無意識のうちに理解しているため、プレスやパスカットに備えて動こうとするのです。

また守備側の選手が同じ右利きであれば、なおさら予測しやすいでしょう。

このようなことは、攻撃側の選手が左利きであったとしても同じ現象が起きます。

やはり左利きであってもキックの蹴りやすい範囲は決まっているので、守備側もプレスやパスカットに備えて反応出来るのです。

それでは右利きの選手がボールを左足に持ち替えて蹴ったとしたら、守備側はどのように反応すると思いますか?

実は守備側の選手は、無意識のうちに相手の利き足が右→左に変わっただけと判断するのです。

つまり、攻撃側の選手の蹴りやすい範囲を一瞬のうちに判断して、新たな予測の基でキックに反応するわけですね。

こうした守備側の判断の切り替え能力はとても早く、むしろ攻撃側の利き足が最初から左であったかのような認知反応をします。

したがって、ボールを左右に持ち替えて蹴ったとしても、次のプレーは守備側に簡単に予測されてしまうわけです。

これでは「相手の裏をかく、騙す」というプレーは成り立ちません。

以上のように、左右のどちらで蹴ってもキックの蹴りやすい範囲は限定されています。

そうした中で、利き足を使って同じキックフォームで真っ直ぐ蹴ったり、カーブやアウト回転をかけることは「相手の裏をかく、騙す」という大人のプレーになるわけです。

別の言い方をすれば、蹴り分けは利き足特有のテクニックとも言えるでしょう。

さて次はキックの蹴り分けと育成年代の指導について解説します。

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(4)蹴り分けと育成年代の指導

日本の育成年代の指導では、キックは蹴りたい方に軸足を向けるとか、飛距離やシュートの強弱だけを重視する傾向があります。

つまり近くに蹴るか?遠くに蹴るか?強く蹴るか?弱く蹴るか?という程度の違いですね。

また、距離に応じて蹴り方を加減するのが蹴り分けである…、と勘違いする指導者も多いです。

さらに、右利きの選手が右サイドに蹴る時に左足に持ち替えて蹴る…、という程度の技術を蹴り分けと考えている指導者さえいます。

ところが海外では利き足で真っ直ぐ蹴ったり、カーブやアウト回転を掛けられる選手の方が優秀とされています。

そうした現状にも関わらず、日本の指導者には蹴り分け自体の考え方が、正しく理解出来ていません。

これでは状況に応じてパスコースやシュートコースを変えるなどの、「相手の裏をかく、騙す」というプレーは難しいでしょう。

やはり利き足で蹴り分けない限り、あまり意味がないのです。

こうした蹴り分けの考え方は野球の心理戦に近いですが、どちらかと言えばブラジルサッカーのマリーシアにも似ています。

日本では未だに正々堂々と…などという呑気な指導者が多いですが、ブラジルのようなサッカー大国に近づくためにも、こうしたマリーシア的な指導も大切にしてほしいと思います。

※マリーシアを詳しくお知りになりたい方は、次の記事をお読みください。
マリーシアの本当の意味!日本サッカーに今必要な理由とは?

私が考える指導の指針としては、目標に向かって正確に蹴るのは小学生年代までにマスターしてほしいです。

また中学生年代からは、利き足を使った同じキックフォームで、いろいろな方向に自由自在に蹴り分けられるテクニックを学んでほしいとも思います。

さて、次は元名古屋グランパスエイトのストイコビッチのキックを例にして、キックの蹴り分けと軸足の位置関係について解説します。

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