ブラジルでのコーチの経験を活かして、 サッカー未経験の方にも分かりやすく科学的で正しい理論をご紹介します

マリーシアの本当の意味!日本のサッカーに今必要な理由とは?

日本では、マリーシアの意味を未だに「ずる賢い」とか「汚いプレー」などと誤解されています。

そこで今回は私がブラジルで学んだ本当のマリーシアを解説します。

※この記事は2つのページに分かれているので、順番に読んでも良いですし、直接それぞれのページを読んでいただいても結構です。

1ページ目(このページに書いてあります)
【マリーシアとは】
【日本代表の外国人監督とマリーシア】

2ページ目(←クリック!)
【サッカー以外の競技とマリーシア】
【マリーシアは日本サッカーに根付くのか?】
【まとめ】

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【マリーシアとは】

ここではマリーシアの意味を正しく理解するために、次の2つを解説します。

(1)マリーシアの本当の意味
(2)ドゥンガと日本代表

(1)マリーシアの本当の意味

マリーシア(malicia)とは、ポルトガル語で「ずる賢い」という意味ですが、日本ではこの言葉の意味をとても狭く解釈しています。

例えば、ファールを受けるためにわざと倒れて痛がったりする…、審判の見ていないところでラフプレーをする…などですね。

そうすると汚いプレーだ、みっともない、ずるい…などと思われがちで、正々堂々とやるべきだ!という意見もあるようです。

サムライの国らしいですね。

私は30年前にブラジルサンパウロのサッカークラブでジュニアとジュニアユースのアシスタントコーチをしていました。

その時に初めて知ったマリーシアは、どちらかと言えば男女の恋愛の駆け引きの意味に使われていました。

例えば、好きな女性に真正面から告白して失恋した友人に対し、「お前はマリーシアが足りないな…」などと言う具合ですね。

これは「経験が少ない」とか「駆け引きが下手」という意味になるわけです。

サッカーの場合もこれと同じで、経験が浅く真正直なプレーをした選手に対し「マリーシアが足りない」というように使いました。

これに対して、日本で考えられているような汚くてずるいプレー…、例えばペナルティーエリア内でPKを取ろうとしてわざと倒れるようなプレーはマリーシアとは言いません。

このようなずるいプレーは、マランダラージと呼ばれ、ブラジル国内では批判されているのです。

つまり、マリーシアの本当の意味は、「試合経験が豊富」「駆け引きが上手い」「したたかな試合運び」「知的なプレー」などのような使い方が正しいのです。

こうしたマリーシアの本来の意味を、初めて日本に伝えたのは元ブラジル代表で、Jリーグでも活躍したドゥンガです。

(2)ドゥンガと日本代表

日本に初めてマリーシアを伝えたのは、1995年に来日した元ブラジル代表のドゥンガです。

1995年8月、ドゥンガはブラジル代表のキャプテンとして、日本代表と対戦して5対1で勝ちました。

ドゥンガは試合終了後のインタビューで、日本代表の印象を聞かれて、次のように答えています。

「日本人は真面目にプレーしていたがマリーシアが足りない。」「選手たちはキックオフ直後からハイプレスを繰り返してきた。」「だから今日の暑さを利用して前半はパスを回して相手の体力を消耗させた。」

たぶんドゥンガの日本選手に対する印象は、暑い中でブラジルのパス回しを必死で追いかける様子を見て「経験が足りないな…」とか「真正直すぎる…」と感じたのでしょう。

当時の日本代表は加茂監督で、主な戦術はハイプレスとショートカウンターです。

ハイプレスとは守備戦術の一つで、相手陣内の高い位置でプレスをかけて(2~3人で相手を囲んで)ボールを奪うというものです。

またショートカウンターは、高い位置で奪ったボールを少ないパスで繋いで速くゴールに向かうという攻撃戦術ですね。

こうしたプレーを90分間続けると、選手の体力はかなり消耗します。

もちろん今でもこうした戦術は海外でよく使われますが、どのチームも試合途中でゆっくりパスを回して休む時間を作っています。

つまり速く攻撃する時と、時間をかけて休む時を使い分けているのです。

でも日本人は真面目なので、こうしたメリハリを付けずにひたすら頑張ったようですね。

当時の日本はワールドカップの出場経験もなく、アジアで勝つのが精いっぱいの状態だったので、海外の本物のサッカーを知らなかったのでしょう。

ドゥンガは、そうした日本の事情も分かっていたのかも知れません。

こうした日本人のマリーシアの足りなさは、日本代表の歴代外国人監督も指摘しています。

そこで次に、日本代表の外国人監督とマリーシアについて解説します。

【日本代表の外国人監督とマリーシア】

(1)オフト

オフトはサッカーの基本戦術を知らなかった日本人に対し、基礎基本を叩き込み、規律と組織の大切さを重んじ、チームへの忠誠心を植え付けました。

そうした中でドーハの悲劇を迎えるわけですが、試合後のインタビューで次のように言っています。

「ゲームの作り方は細かいところまで教えたが、試合の終わらせ方(マリーシア)までは教えられなかった」

オフトは、この試合の後半で「キープ・ザ・ボール」を連呼していましたが、日本の選手たちには監督の真意(試合の終わらせ方)が理解できなかったのでしょう。

そもそも、こうした試合運びの巧さは経験によって身に付くものです。

ところが、サッカー創生期の日本にとっては基本戦術を学ぶのに精いっぱいで、マリーシアを覚えるまでには至らなかったのでしょう。

(2)ファルカン

ファルカンの在任期間は短かったですが、長期的な選手の育成と言う点で面白いエピソードがあります。

代表合宿のミーティングで守備の方法を説明したところ、ある若手選手が済まなそうに「分かりません」と言うと、理解出来るまで丁寧に教えたそうです。また次の日のミーティングでも同じことがあり、やはり詳しく説明したそうです。

これはブラジルの指導者であれば当然のことなのですが、チームの内の一人でも分からないままにすると戦術が成り立たないことが分かっているのです。

だから選手全員を理解させるのは、監督として当然の役目と考えているわけですね。

これは、ブラジルの選手たちにマリーシアが根付く理由の一つとされています。

そもそもブラジルは多民族国家で貧富の差も大きいことから、学力レべルの高い選手もいれば学校に通えない選手もいます。

そうするとサッカーのテクニックは上手でも、戦術や試合運びが理解できない選手が大勢いるのです。

だから、指導者に求められるのは、サッカーの駆け引き、したたかな試合運び、知的なプレーを分かりやすく教えることなのです。

そうすることで本当のマリーシアが身に付くというわけですね(私も先輩コーチから教わりました)。

(3)トルシエ

トルシエは2002年日韓ワールドカップの時、日本代表をベスト16に導いたことで知られています。

その際、就任直後に視察したJリーグの試合を見て「試合後半で1対0で勝っているのに、まだ点を取ろうとするのは理解できない」と言ったそうです。

これは先ほどのオフトの「試合の終わらせ方(マリーシア)」と同じ意味ですね。

また別の機会では「日本人は真面目すぎる。どんなに車が来ないような横断歩道でも信号無視をしない」とも言っています。

これはずる賢さやルール違反を推奨しているのではなく、特に問題がなければ真正直に考える必要はなく、もっと知的なプレーをしてほしい!という意味なのです。

海外での試合経験が乏しく、マリーシアが身に付いていない日本人に対する、一種の警鐘なのでしょう。

(4)ジーコ

ジーコは2006年ドイツWカップまで日本代表を率いました。

代表チームでは大まかな指示はするものの、細かいことは選手同士の話し合いで戦い方を決めるという自主性を重んじました。

その理由は日本人が決まりごとに固執するあまり、創造的で多様性のあるプレーが出来ないという欠点を見抜いていたからです。

そうした中で選手としての成長を促しながら、サッカーの本質(本当の意味のマリーシア)を理解させようとしたのでしょう。

(5)オシム

オシムが目指したものはサッカーの「日本化」です。

それまでの日本は南米やヨーロッパのサッカーを取り入れましたが、これは戦術を真似しただけに過ぎません。

そこで日本人の特徴であるアジリティや走力を活かして、日本人に合ったサッカーの形を作り出そうとしました。

つまり、日本独自のサッカー文化を生み出し、それを国内に広めようとしたわけです。

もちろんそうした過程で、日本人に合ったマリーシアの考え方を根付かせようとしたのでしょう。

(6)ザッケローニ

ザッケローニは就任直後のアジアカップで優勝後、順調にブラジルワールドカップアジア予選を通過しました。

そうした中で迎えた2013年のブラジルコンフェデレーションズカップのイタリア戦では、前半で2点リードしたものの後半に逆転され3対4で敗れています。

試合後の会見では「イタリアは経験豊富でマリッツィア(マリーシアのイタリア版)を持っている。でも日本にはこれが足りない。」と話していました。

これはドーハの悲劇と似ていますよね。

試合をリードして優位に立ったら、次は終わらせ方を考えるのですが、当時の日本にはこの発想がなかったのです。

これは時間稼ぎのような汚いプレーを意味するのではなく、試合運びの巧さを身に付けることの大切さを説いているわけですね。

ちなみにブラジルでは「棺桶のフタを閉めろ」という格言があり、これもマリーシアの考えから来ています。

例えば、2対0でリードすると気持ちが緩んで逆転される恐れがあるため、3点目を取って相手をあきらめさせろ!と言う意味です。

先ほどの日本対イタリアの試合は正にその通りでしたし、2018ロシアワールドカップの対ベルギー戦も同じく2対0から逆転負けしていますよね。

やはり、本当の意味のマリーシアと無縁な日本にとっては、起こるべくして起こった結果なのでしょう。

(7)アギーレ

アギーレは就任当初の記者会見で、「ピカルディア(スペイン語でマリーシアと同義語)」を訴えています。

ピカルディアはずる賢いとか汚いプレーとは違い、ルールの中で出来る最大限可能な試合のコントロール(試合運び)である…と説明しています。

またアギーレも他の外国人監督と同様に、日本選手の真面目すぎる特性を理解していたのでしょう。

その証拠に、アジアカップ期間中のインタビューでは「日本人は言うことを聞き過ぎる」「もっと自由な発想が必要だ」とも話していました。

これはジーコの考え方によく似ていますね。

やはり個々の選手の成長によって、マリーシアの本質を身に付けて欲しいと考えたのだと思います。

(8)ハリルホジッチ

ハリルホジッチはデュエル(一対一での格闘)が有名したが、もう一つの言葉として「インテリジェンス」を提唱しています。

これは日本選手がペナルティーエリアに侵入しても、シュートを決めきれないことに対する対処法とされていました。

このインテリジェンスとは知的なプレーを指し、例えばペナルティーエリア内で相手DFにファールをさせるようなポジション取りを意味します。

つまり、相手が足を引っ掛ける、手で押す、フォールディングするなどのファウルを誘うわけですね。

ただしこうしたプレーはあくまでも誘っているだけであって、実際に反則をするのは相手だからマランダラージのような汚いプレーというわけではありません。

その他にも、試合の終わらせ方(本来の意味のマリーシア)を経験させようとしましたが、結局はロシアワールドカップ直前に解任されています。

(9)外国人監督の共通点

これまでの8人の監督の中で共通しているのは、日本代表にはマリーシアの真意はほとんど伝わっていないということです。

これは4年に1回のワールドカップに合わせて監督を人選するため、任期が短いという点も影響しているのでしょう。

また代表選手に伝わらなければ、当然育成年代にも広まりません。

ブラジルの場合はサッカーが国の文化の中心にあることから、すでに育成年代からマリーシアを理解しています。

こうした点が日本と海外の大きな違いなのでしょう。

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ところが、日本ではサッカー以外の競技(例:野球)でマリーシアが見られます。

そこで、次にサッカー以外の競技のマリーシアについて解説します。

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