日本では、キックの蹴り方は膝から下を強く振る…とよく言われます。
でも、こうした蹴り方は大きな問題を起こしているのをご存知ですか?
そこで今回はサッカーの科学的な正しい蹴り方と練習法、膝を強く振ることの問題点などを解説します。
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1.キックの仕組みを考える
自然身体構造研究所の所長・吉澤雅之さんによれば、「サッカーの一流選手は足の遠心力と重さを使ってボールを蹴る…」と解説しています。
この動画で解説する足の遠心力とは、足を後ろから前に振る時の縦回転の運動エネルギーです。
また足の重さを使うとは、足をハンマー投げの重りのように利用するという意味ですね。
この場合、片足あたりの重さは体重の約18%なので、体重60㎏の人であれば約10㎏分の重さを振り回すようにして蹴るということになります。
そこでこれらの科学的根拠について、次に図を使って詳しく解説しましょう。
(1)足の遠心力を使った蹴り方
足の遠心力を使ってボールを蹴ると、スイングスピードが速くなります。
そこで、この様子について振り子を例に考えてみましょう。
次の図で振り子を動かす時の速度は、最下点Cで運動エネルギー(速さ)が最大になります。
そうするとAとBが最下点Cを通過する時の速度を比べると、どちらの方が速いと思いますか?
答えはAですよね。
その理由はAの方がBよりも振り幅が大きく、それに比例して遠心力が大きくなるからです(振り幅=遠心力)。
これをサッカーのキックに例えると、振り幅の違いはバックスイングの大きさになります(大きく振るか小さく振るかの違い)。
つまりバックスイングをAのように大きくすれば、スイングスピードが速くなるわけですね。
だから足の遠心力を使った蹴り方がとても効果的なのです。
(2)足の重さを使った蹴り方
足の重さを使うとインパクトの時に大きなパワーを発揮します。
このパワーも遠心力と同じで、物理的には運動エネルギーなのです。
これはハンマー投げのように重たい物を振り回して投げる様子をイメージすると分かりやすいでしょう。
その際、足の重さを使うためには股関節から下をリラックスして蹴るのが大切です。
そうすると蹴り足がまるで重りのように感じられます(この感覚が足の重さを使うという意味)。
この時、もしも筋肉に思いっ切り力を入れて蹴ったら、どうなると思いますか?
ほとんどの人は遠くに飛ぶはず…と思うでしょう。
ところが意外とそうではなく、十分なパワーを発揮できません。
なぜなら、サッカーの一つ一つのプレーは筋肉の伸長収縮反射によってパワーを発揮するからです。
伸長収縮反射とは、筋肉をゴムのように伸ばした後で反射的に縮ませるという反射運動です(例:膝振りの場合は腸腰筋や大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)などを伸ばしてから一気に縮ませる)。
この時に筋肉に力を入れたとしたら弾力性のない硬いゴムと同じなので、伸ばすことも縮めることも出来ません。
むしろリラックスした方が、筋肉の伸長収縮反射を活かせるのです。
こうした考え方を「筋出力の最大化」と言い、自分の持つ筋肉の潜在的なパワーを最大限に引き出すスキルです。
※筋肉の伸張反射は、次の記事を参考にしてください。
さて以上の2つの考察をまとめると、ボールを蹴る時のスピードとパワーを生み出す原理は次のとおりです。
①遠心力を使ってバックスイング大きくすると、スイングスピードが速くなる。
②足の重さを使うと、インパクトのパワーを生み出す。
サッカーの蹴り方では、この2つの点が重要なのです。
そこで次に蹴り方の詳しい練習法について解説します。
2.蹴り方の練習法
足の重さと遠心力を使った蹴り方はとても簡単で、股関節から下の筋肉を脱力して振り子のようにスイングすれば足の遠心力と重さを体感出来ます。
その際、足首に重り(濡れた手ぬぐいを巻き付けても良い)を付ければもっと実感しやすいでしょう。
だんだんと慣れてくれば自然とスイングスピードがアップするので、筋肉に力を入れない方が楽にヒザが振れる…と感じられますよ。
まるで騙されたみたいに思われるでしょうが、科学的にはこれが正解なのです。
さて遠心力と足の重さを使う感覚に慣れたら、次は実際にボールを蹴ってみましょう。
この時に大切なのは、リラックスして足をボールに当てる…ということです。
もちろん最初のうちはほとんどボールが飛びませんが、練習を続ければ飛距離は自然と伸びて来ます。
ただし、この蹴り方に慣れるまでは決して遠くに飛ばそうとしないでください。
なぜならボールを遠くに飛ばそうとすると、かえって力んでしまい筋肉にムダな力が入ってしまうからです。
そうなると筋肉の伸張反射が発揮できませんし、足の遠心力と重さも使えなくなるからです。
ところでこの感覚に慣れると足に余計な力が入らないので、ボールコントロールが正確になります。
その理由は野球を例にするとよく分かります。
試しに全力でマトに向かってボールを投げてください。
次に力を抜いて投げてください。
どちらがマトに当たりやすいですか?
力を抜いて投げた方ですよね。
実はサッカーの蹴り方も同じです。
このようにリラックスした蹴り方を覚えれば、キックのボールコントロールも自然と上手くなるのです。
しかも今まで経験したこともないようなスピードとパワーを実感できるので、ぜひ試してみてください。
※その他にもキック力を付ける方法は、たくさんあるので次の記事も参考にしてください。
さてこうした蹴り方を覚えると、実はヒザや足首の痛みで悩むことはほぼなくなります。
そうした点では、日本でよくありがちな「ヒザ下を強く振る」という指導には問題があるのです。
そこで次に、この問題点を詳しく解説します。
3.膝を強く振る蹴り方の2つの問題
「膝下を強く振る」という指導は、子供たちにとって果たしてどのように理解されていると思いますか?
たぶん膝を強く振り続けるので、結局は関節やじん帯を酷使するでしょう。
その結果、子供たちは膝の痛みに悩むだけなのです。
要するに、これまでの指導は「膝下を強く振る」という点を強調し過ぎたのではないでしょうか?
その結果、スポーツ理論と医学的所見という2つの点で問題が起きています。
(1)スポーツ理論からの膝振りの問題点
筋肉の伸張反射を使ってボールを飛ばすためにはリラックスが必要です。
ところが膝振りを強くすると、かえってヒザ関節とその周辺の筋肉の動きが悪くなるため、筋肉の伸張反射が使えなくなりますよね。
そうすると、子供たちはさらにスイングスピードをアップさせようと勘違いして、ヒザ下の強い振りを繰り返すことになるのです。
その結果、ヒザの炎症による痛みに襲われ、最悪の場合は慢性化してしまいます。
実際にもひざ痛で悩む子供は多いはずです。
やはり、サッカーは筋肉の伸長収縮反射が必要なのでリラックスして蹴らなくてはいけません。
(2)医学的所見からの膝振りの問題点
ひざ関節やじん帯は筋肉ではないので、膝の力だけでは十分なパワーを発揮できません。
実はサッカーの蹴り方は、ヒザの周辺の筋肉と骨格を動かすことによって初めてパワーが生まれるのです。
その際「膝下を強く振る」ことを意識して、いくらヒザに力を入れても、結局、じん帯に炎症を起こすだけになります。
また、太もも、ふくらはぎ、スネにも力が入るので、使い過ぎればケガに繋がりますからね。
さらに膝関節と周辺の筋肉を無理に動かそうとして必要以上に力むと、先ほども解説したとおりかえって動きが悪くなります。
実は、この状態はヒザの動きにブレーキをかけるのと同じなのです。
むしろ股関節と膝を脱力した方が、足の遠心力と重さが使えるので自然で速いヒザ振りが出来るわけですね。
ちなみに私がブラジルのサッカークラブでジュニアのアシスタントコーチをしていた頃、子供たちは貧弱な体付きなのにも関わらず強くて速いボールを蹴っていました。
しかもムダな力みが全くありません。
たぶん、あなたも「どうしてあの子が蹴ると遠くまで飛ぶの?」なんて、私と似たような経験が一度はあるはずです。
これまでの解説を読んでお分かりになったと思いますが、特に難しい蹴り方をしているわけではありません。
スポーツ科学や医学に合った、正しい蹴り方をしているだけなのです。
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4.まとめ
これまで足の遠心力と重さを使った正しい蹴り方を解説しましたが、日本の少年サッカーの多くの指導者は、未だに「ヒザ下を強く振る」ことだけを教えています。
果たして小学生や中学生などの育成年代の子供たちが、真意をきちんと理解出来ていると思いますか?
ほとんどの子供はヒザを使ってボールを蹴る…と理解し、ひたすら練習を続けてヒザを酷使するだけだと思います。
やはり「ヒザ下を強く振る」という言い方だけでは、間違いの元になのです。
その一方で、多くの子供たちがヒザの痛みで悩んでいます。
この場合、サッカーをしているのだから仕方がない…などと思い過ごすのは止めましょう。
親として、子供たちを救ってあげることが出来るはずです。
ぜひ多くのサッカー少年が、正しい蹴り方を理解してほしいと願っています。